番外編
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君とペンギン
Free scenario.~君とこの世界で暮らすひととき~
ボルカノさんが小さな黒と白のツートンカラーの生命体と睨み合いを始めてから十五分。ガラス面越し、お互い微動だにしない。ボルカノさんもペンギンも飽きないんだろうか。
この世界の動植物について知識を得られる場所はあるか。そう聞かれて思いついたのは先ず動物園。次点で植物園。どっちに行くのか決めあぐねた結果、気を使われたのか私の行きたい方で良いということになった。
そういうわけでバスと電車に揺られて動物園にやってきたのである。何年ぶりだろうか。
ペンギンといえば水族館と思われがちだけど、設備が整っていれば動物園にもいる。それと調べていた時に偶然見つけたもので、ペンギンが間近で見られる飲食店もあるらしい。もしそこへ行ったら食事そっちのけでペンギンを見つめていそうだ。
パタパタパタとペンギンの小さな手が動いた。
◆◇◆
「随分熱心にペンギン見てましたね。気に入ったんですか」
彼の興味対象は分かりやすい。興味を持ったものは穴が開きそうになるほど観察をする。そしてそれを観察中は周りの声が殆んど届かない。集中力の高さに頭が上がらないのもあり、有事にはしっかり反応を示すので本当にスゴイと思う。
ペンギンをじっくりと観察し終わった後、別のブースへ移動中に私はさっきの質問をした。すると、こくりと彼が私の横で頷いた。
「彼等を観察して分かったことだが」
「はい」
「興味深いことがわかった」
「なんですか?」
「鳥類に属しながら、翼が退化した理由は食物の獲得争いから逃れるため空ではなく海に狩り場を移したと。退化した翼は木の板のように平たく固い。泳ぎに特化している」
遥か大昔、ペンギンは空を飛んでいたと何かの番組で見た気がする。それを改めて彼の口から聞くとなんとなく説得力があった。
「ボルカノさんスゴいですね。見ただけでそこまで分かるなんて。さすがだなあ」
「この情報の半分はパネルで展示されていたぞ」
「…そうでしたっけ?ペンギンとボルカノさんにばかり目が行ってたから気がつかなかった」
ペンギンと見つめ合う構図があまりにおかしくて。両者共に真顔でぴくりとも動かないんだもの。写真に納めとけばよかった。
彼は「何を」と目を横へ反らす。
「ボルカノさんが楽しそうで良かったなあと思って」
「……まだ見ぬ物の知識を集めたいだけだ。楽しんでいるつもりはない」
「そうですか?横で見てた感じは普段よりテンション二割増しくらいでしたよ」
また黙ってしまった。それから少しして「顔に出しているつもりはない」と素っ気ない言い方をする。本人は否定するけど、私には確かに感じられたんだ。彼の些細な変化を捉えられる様になったことが少し嬉しい。
ボルカノさんは何か言いたそうにこちらを見てきた。別に悪いことじゃないんだから、そう目くじら立てなくてもいいのに。
「私は楽しいですよ。ボルカノさんと一緒に動物園に来られて。まさかこんな日が来るなんて思ってもいなかったし」
「…そうか」
「次どこに行きましょうか。アシカやアザラシもいるみたいですよ。それともゾウ舎に行きます?」
私は入園時にもらったパンフレットを広げ、現在地からどっちが近いか確認していた。ここからならアザラシ館が近い。
ふと私の視界に長い指が映った。すっとアザラシのアイコンを示す。
「ここへ」
「いいですよ。あ、今赤ちゃんアザラシいるみたいですね。白い毛並みの子が見られるかも!滅多にないですよ、こんな機会」
「それはいい時に来た。成体と比べやすい」
「ボルカノさんの見解を聞くのが楽しみです」
アザラシ館の方へ足を向けながらパンフレットを小さな鞄に押し込む。少し目を離していた隙に反対側から歩いてきた家族連れとぶつかりそうになった。寸での所でタイミングよく腕を横に引かれ、回避。家族連れに軽く頭を下げてから腕を引いてくれた彼の横顔を見上げた。
「ありがとうございます。もう少しでぶつかるところでした」
「余所見をしない方がいい。人も多いようだからな」
「はい」
彼はそのまま私の腕を掴んでいる。これはひょっとして。
「迷子防止ですか」
「……そうだな。不慣れな土地で姿を眩ませられたら探しようがない」
そう言って呆れたように溜息をついた。これだと無理矢理引っ張られている感じがする。ここまでしなくても勝手に居なくなったりしないのに。
「ボルカノさん。腕、私が掴んでもいいですか」
「ああ」
少しの間を置いてからそう返ってきたので、彼の腕にそっと自分の腕を絡ませた。すぐ側に感じる温もりがこそばゆくて、ふふっと笑みが私の口元から溢れた。
Free scenario.~君とこの世界で暮らすひととき~
ボルカノさんが小さな黒と白のツートンカラーの生命体と睨み合いを始めてから十五分。ガラス面越し、お互い微動だにしない。ボルカノさんもペンギンも飽きないんだろうか。
この世界の動植物について知識を得られる場所はあるか。そう聞かれて思いついたのは先ず動物園。次点で植物園。どっちに行くのか決めあぐねた結果、気を使われたのか私の行きたい方で良いということになった。
そういうわけでバスと電車に揺られて動物園にやってきたのである。何年ぶりだろうか。
ペンギンといえば水族館と思われがちだけど、設備が整っていれば動物園にもいる。それと調べていた時に偶然見つけたもので、ペンギンが間近で見られる飲食店もあるらしい。もしそこへ行ったら食事そっちのけでペンギンを見つめていそうだ。
パタパタパタとペンギンの小さな手が動いた。
◆◇◆
「随分熱心にペンギン見てましたね。気に入ったんですか」
彼の興味対象は分かりやすい。興味を持ったものは穴が開きそうになるほど観察をする。そしてそれを観察中は周りの声が殆んど届かない。集中力の高さに頭が上がらないのもあり、有事にはしっかり反応を示すので本当にスゴイと思う。
ペンギンをじっくりと観察し終わった後、別のブースへ移動中に私はさっきの質問をした。すると、こくりと彼が私の横で頷いた。
「彼等を観察して分かったことだが」
「はい」
「興味深いことがわかった」
「なんですか?」
「鳥類に属しながら、翼が退化した理由は食物の獲得争いから逃れるため空ではなく海に狩り場を移したと。退化した翼は木の板のように平たく固い。泳ぎに特化している」
遥か大昔、ペンギンは空を飛んでいたと何かの番組で見た気がする。それを改めて彼の口から聞くとなんとなく説得力があった。
「ボルカノさんスゴいですね。見ただけでそこまで分かるなんて。さすがだなあ」
「この情報の半分はパネルで展示されていたぞ」
「…そうでしたっけ?ペンギンとボルカノさんにばかり目が行ってたから気がつかなかった」
ペンギンと見つめ合う構図があまりにおかしくて。両者共に真顔でぴくりとも動かないんだもの。写真に納めとけばよかった。
彼は「何を」と目を横へ反らす。
「ボルカノさんが楽しそうで良かったなあと思って」
「……まだ見ぬ物の知識を集めたいだけだ。楽しんでいるつもりはない」
「そうですか?横で見てた感じは普段よりテンション二割増しくらいでしたよ」
また黙ってしまった。それから少しして「顔に出しているつもりはない」と素っ気ない言い方をする。本人は否定するけど、私には確かに感じられたんだ。彼の些細な変化を捉えられる様になったことが少し嬉しい。
ボルカノさんは何か言いたそうにこちらを見てきた。別に悪いことじゃないんだから、そう目くじら立てなくてもいいのに。
「私は楽しいですよ。ボルカノさんと一緒に動物園に来られて。まさかこんな日が来るなんて思ってもいなかったし」
「…そうか」
「次どこに行きましょうか。アシカやアザラシもいるみたいですよ。それともゾウ舎に行きます?」
私は入園時にもらったパンフレットを広げ、現在地からどっちが近いか確認していた。ここからならアザラシ館が近い。
ふと私の視界に長い指が映った。すっとアザラシのアイコンを示す。
「ここへ」
「いいですよ。あ、今赤ちゃんアザラシいるみたいですね。白い毛並みの子が見られるかも!滅多にないですよ、こんな機会」
「それはいい時に来た。成体と比べやすい」
「ボルカノさんの見解を聞くのが楽しみです」
アザラシ館の方へ足を向けながらパンフレットを小さな鞄に押し込む。少し目を離していた隙に反対側から歩いてきた家族連れとぶつかりそうになった。寸での所でタイミングよく腕を横に引かれ、回避。家族連れに軽く頭を下げてから腕を引いてくれた彼の横顔を見上げた。
「ありがとうございます。もう少しでぶつかるところでした」
「余所見をしない方がいい。人も多いようだからな」
「はい」
彼はそのまま私の腕を掴んでいる。これはひょっとして。
「迷子防止ですか」
「……そうだな。不慣れな土地で姿を眩ませられたら探しようがない」
そう言って呆れたように溜息をついた。これだと無理矢理引っ張られている感じがする。ここまでしなくても勝手に居なくなったりしないのに。
「ボルカノさん。腕、私が掴んでもいいですか」
「ああ」
少しの間を置いてからそう返ってきたので、彼の腕にそっと自分の腕を絡ませた。すぐ側に感じる温もりがこそばゆくて、ふふっと笑みが私の口元から溢れた。
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