第一章
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3.北と南の術士
死の星が世界を覆い尽くした。ほんの十数年前に起きた死食と呼ばれる現象。その年に生まれた命は生を全うすることなく死に絶える。人間、植物、魔物全ての命が奪われた。二人の赤ん坊を残して。
六百年前の死食で生き残った赤ん坊はやがて魔王となり世界を震撼させ、三百年前の死食で生き残った赤ん坊は聖王となり世界に秩序をもたらした。そんな神話が残されている。
そして現在。今回の死食でも生き残った赤ん坊がいる。しかも二人。この宿命の子らが滅びを迎えた世界を再生へと導いた。
すべてを破壊するものを倒すべく立ち上がった彼らが活躍する話はまだ始まったばかりに違いない。
頭がパンクしそうだった。覚えている限りのあらすじをざっと思い出してみても、私がその世界に居るなんて信じられなかった。そもそもどうしてこの世界に呼び出されたんだろう。私は何の変哲もない一般人だ。特技だってこの世界で役立つものは身に着けていない。剣道や弓道、柔道などの部活動に所属をしていれば少しは役に立ったのかもしれないけど。生憎、体力勝負は苦手で専ら文化系に所属していた。社会人になってから運動量は益々減ったし、正直この世界でやっていける自信がこれっぽっちもない。何せ魔物がそこら中にうじゃうじゃしている世界だ。問答無用で人を襲ってくる。貧弱な私なんかすぐに殺されてしまう。
そんな世界にやってきてしまったが、まだ自我を保っていられるのは元の世界に帰れるかもしれないという希望があるからだと思う。手違いで呼び出したと言っていたのが少し不安でならない。それでも、あの人に任せるしか今はない。
私は先程訪れた雑貨屋の壁に背を預けていた。見上げた空は白々しいぐらいに青い。天気も良くて気温も高いはずなのに。背筋にぞくりと悪寒が走る。
このモウゼスに居る北と南の術士は、死者の井戸の奥深くに眠っている魔王の盾を巡って争いを続けている。
死者の井戸に近づいてみたはいいものの、術士のローブを着たボルカノの手下が見張りをしていた。あそこに見張りが居るということは、魔王の盾騒動が起きる前の時間軸。両者とも睨み合いをきかせている最中だ。
さらに、さっき見かけたユリアンとモニカ。ユリアンはロアーヌの跡継ぎ騒動の後、ミカエルの薦めでプリンセス親衛隊に入隊。しかし政略結婚を迫られたモニカの願いを聞き入れてロアーヌを共に離れた。カタリナは神王教団に奪われたマスカレイドを取り戻しに旅に出ている。シノンの開拓民メンバーも何処かにいるのかもしれない。
ウンディーネとボルカノはお互いに牽制をしているが、術の相性が悪く直接対決は控えているようだった。その為、腕の立つ冒険者に互いの暗殺を依頼する。遅かれ早かれ、彼らのうち誰かが北と南の術士に接触をしてくるだろう。
海上要塞であるバンガードを動かす為には玄武術士の力が必要だ。ということは、ウンディーネの頼みを聞いてボルカノを暗殺に来る可能性が極めて高い。
でも、道はそれだけじゃない。幾つかのパターンが存在している。逆にボルカノの依頼を受けてウンディーネを倒したとしても、彼女の弟子達がバンガードを動かすことに協力はしてくれる。
若しくは先に井戸の中に潜り込んで魔王の盾を入手する。抜け駆けをした彼らに激怒した二人の術士は戦いを挑むが、敗北に終わる。彼らが「町の人をこれ以上困らせるな」と諭し、どちらの術士も生存するパターン。私はいつもどちらかを倒すことができなくて、喧嘩両成敗の方を選んでいた。けれど、この世界がこれからどう動いていくのか分からない。
それに、此処はゲームの世界であって、そうじゃない。此処で死んだらきっと私の人生はそこで幕を下ろすんだろう。
私はずるずると崩れる様にその場で膝を抱え込んだ。考えすぎて頭が痛くなってきた。胸が圧迫されるように呼吸が苦しくて、息が詰まりそう。
どうしようもない不安に駆られた私は目の奥が熱くなるのを感じ、瞼を閉じた。
死の星が世界を覆い尽くした。ほんの十数年前に起きた死食と呼ばれる現象。その年に生まれた命は生を全うすることなく死に絶える。人間、植物、魔物全ての命が奪われた。二人の赤ん坊を残して。
六百年前の死食で生き残った赤ん坊はやがて魔王となり世界を震撼させ、三百年前の死食で生き残った赤ん坊は聖王となり世界に秩序をもたらした。そんな神話が残されている。
そして現在。今回の死食でも生き残った赤ん坊がいる。しかも二人。この宿命の子らが滅びを迎えた世界を再生へと導いた。
すべてを破壊するものを倒すべく立ち上がった彼らが活躍する話はまだ始まったばかりに違いない。
頭がパンクしそうだった。覚えている限りのあらすじをざっと思い出してみても、私がその世界に居るなんて信じられなかった。そもそもどうしてこの世界に呼び出されたんだろう。私は何の変哲もない一般人だ。特技だってこの世界で役立つものは身に着けていない。剣道や弓道、柔道などの部活動に所属をしていれば少しは役に立ったのかもしれないけど。生憎、体力勝負は苦手で専ら文化系に所属していた。社会人になってから運動量は益々減ったし、正直この世界でやっていける自信がこれっぽっちもない。何せ魔物がそこら中にうじゃうじゃしている世界だ。問答無用で人を襲ってくる。貧弱な私なんかすぐに殺されてしまう。
そんな世界にやってきてしまったが、まだ自我を保っていられるのは元の世界に帰れるかもしれないという希望があるからだと思う。手違いで呼び出したと言っていたのが少し不安でならない。それでも、あの人に任せるしか今はない。
私は先程訪れた雑貨屋の壁に背を預けていた。見上げた空は白々しいぐらいに青い。天気も良くて気温も高いはずなのに。背筋にぞくりと悪寒が走る。
このモウゼスに居る北と南の術士は、死者の井戸の奥深くに眠っている魔王の盾を巡って争いを続けている。
死者の井戸に近づいてみたはいいものの、術士のローブを着たボルカノの手下が見張りをしていた。あそこに見張りが居るということは、魔王の盾騒動が起きる前の時間軸。両者とも睨み合いをきかせている最中だ。
さらに、さっき見かけたユリアンとモニカ。ユリアンはロアーヌの跡継ぎ騒動の後、ミカエルの薦めでプリンセス親衛隊に入隊。しかし政略結婚を迫られたモニカの願いを聞き入れてロアーヌを共に離れた。カタリナは神王教団に奪われたマスカレイドを取り戻しに旅に出ている。シノンの開拓民メンバーも何処かにいるのかもしれない。
ウンディーネとボルカノはお互いに牽制をしているが、術の相性が悪く直接対決は控えているようだった。その為、腕の立つ冒険者に互いの暗殺を依頼する。遅かれ早かれ、彼らのうち誰かが北と南の術士に接触をしてくるだろう。
海上要塞であるバンガードを動かす為には玄武術士の力が必要だ。ということは、ウンディーネの頼みを聞いてボルカノを暗殺に来る可能性が極めて高い。
でも、道はそれだけじゃない。幾つかのパターンが存在している。逆にボルカノの依頼を受けてウンディーネを倒したとしても、彼女の弟子達がバンガードを動かすことに協力はしてくれる。
若しくは先に井戸の中に潜り込んで魔王の盾を入手する。抜け駆けをした彼らに激怒した二人の術士は戦いを挑むが、敗北に終わる。彼らが「町の人をこれ以上困らせるな」と諭し、どちらの術士も生存するパターン。私はいつもどちらかを倒すことができなくて、喧嘩両成敗の方を選んでいた。けれど、この世界がこれからどう動いていくのか分からない。
それに、此処はゲームの世界であって、そうじゃない。此処で死んだらきっと私の人生はそこで幕を下ろすんだろう。
私はずるずると崩れる様にその場で膝を抱え込んだ。考えすぎて頭が痛くなってきた。胸が圧迫されるように呼吸が苦しくて、息が詰まりそう。
どうしようもない不安に駆られた私は目の奥が熱くなるのを感じ、瞼を閉じた。