ひがんのひなぎくたち

八、おやつ


 同日、五官王ごかんおうは気分転換に閻魔庁を歩いていた。とある部屋の前を通りがかった時、声を掛けられる。部屋の扉は開いており、中には変成王へんじょうおうと前髪を真ん中できっちりと分けた、ポニーテールの男がいた。

「なんか用?」

 中へ入りつつ、机の上を見る。

 ケーキを取り分けた皿が三人分あった。

「ちょうど今五官君迎えに行こうと思ってたんだ。平等びょうどう君がね、君の為に現世からケーキを取り寄せてくれたんだよ」
「んなっ!ち、違うぞ。別に五官王の為ではなく、かと言って自分の為でもなく、たまたま取り寄せただけであって……」

 ポニーテールの男――平等王は段々と小声になっていく。この男は素直にものを言うのが苦手なのか、いつも顔を真っ赤にして言い訳をし始めるのだ。それが毎回面白く、五官王は思わず笑ってしまう。

「な、なにがおかしい」
「いや、別に」

 ここでからかってしまうのは良くない。五官王はそう思うと、空いている席へと座った。

「平等君ったら顔真っ赤だよ。面白いね、五官君」

 言わなくていいことを、変成王はおどけた様子で言う。自分が言うと平等王の気分を害してしまうような気がしてしまうので、こういう所は変成王は上手いなと思った。

「真っ赤な訳な――」
「ほら、鏡で見てみなよ」

 鏡を取り出すと平等王へ渡す。自分の顔を見て、平等王は更に真っ赤になった。

「こ、こんな顔を自分は……」

 ショックなのか、今度はみるみるうちにしょぼくれた表情へとなる。感情が全て顔に出てしまう平等王は、見ていて飽きない。生前さぞかし可愛がられただろうと五官王は思った。

「まあまあ、平等君。そんな落ち込まないで。せっかく五官君も来たんだし、早くケーキ食べよう」
「そ、それもそうだな」

 目の前にあるケーキを見ると、平等王は笑顔へとなった。

「じゃあ、食べようか」

 変成王がそう言うと、三人とも食べ始める。平等王の用意したケーキは、チョコレートケーキであった。一口食べてみる。チョコレートの甘さが一気に押し寄せてくる。ここにブラックコーヒーがあれば完璧だろう。

 ちらりと平等王を見てみる。よほど美味しいのだろう。終始笑顔で食べていた。

 ――平等王って甘いもん好きだよな。本人に言うと否定されるけど。

 これも時代差なのだろうか。平等王が何時代の人なのか知らなかったが、なんとなく昭和以前の人なのだろうなと思っていた。木刀を振っている姿をよく見るからだ。恐らく江戸か明治辺りの人なのかと、五官王は思っている。

 そんな事を考えている間にも、平等王はケーキを平らげていた。箱にもう一切れあるのか、それを取り出すとまた幸せそうに食べる。

「平等君ってさ、本当に美味しそうに食べるよね。ケーキ君も喜んでそう」
「そ、そうか」

 変成王の言葉がいまいち分かっていないのか、平等王はそう返す。

「五官君もそう思うよね?」
「まあ、そうだな」

 にやりと笑い、そう返す。平等王は返事をするのをやめ、目の前のケーキに集中していた。その姿が何故か面白く、笑ってしまう。変成王も一緒になって笑っていた。平等王は変わらず分からないと言った顔で食べ進めていた。

 一通り食べ終えると、皿をまとめ片付ける。

「夕食まで頑張るか」

 伸びをして五官王はそう呟いた。

「うん、そうだね」
「糖分も補給できた事だし、この後も頑張れそうだ」

 二人はそう返すと、立ち上がり仕事をする為に部屋へ戻って行った。
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