ひがんのひなぎくたち

七、友達


 仕事が一段落し、五官王ごかんおうは気分転換に閻魔庁を歩いていた。東屋近くの回廊を歩いていると、大きな声が聞こえてくる。気になったので声のする方へ行ってみると、そこには十王じゅうおう候補である初江王しょこうおう泰山王たいざんおうがいた。

 二人は十代前半程の外見だったが、五官王よりも先にここにいる。生前と冥府にいた時間を考えると、きっと年上なのだろう。

 物陰から見ていると、初江王が悲しそうな表情をしていた。泰山王はこちらに背を向けており、表情がよく分からなかった。

「泰山君。僕たち、友達だよね?」

 今にも泣きそうだった。泰山王は何も言わない。次の瞬間、初江王に背を向けるとそのまま立ち去ってしまった。

「待って!」

 そう言うも、追いかける事はしなかった。下を向き着物の袖を握り締め歯を食いしばるも、初江王は直ぐに顔をあげる。そんな時、目が合ってしまう。隠れて見ていたのがバレてしまった。五官王はどう言い訳するか考えていると、初江王が近付いてきた。

「五官君。僕、間違った事言っちゃったんですかね?」

 自嘲気味に笑いながら初江王は五官王に聞く。ここで軽い事を言ってしまったらまずいと思い、五官王は言葉を探す。

「別に間違った事は言ってない」
「じゃあ、どうすれば泰山君と仲良くなれるんでしょうか」
「そうだな……。今すぐには無理かもしんねえけど、初江王が隣にいれば、その内泰山王から話しかけてくるようになるだろ。だから、その時に改めて友達だねって言えば、きっと頷いてくれる」

 普段から二人は一緒にいる。その時の泰山王の表情を思い出しながらそう答える。泰山王はあまり話さない。しかし、初江王といる時はいつもより長く話しているように、五官王は感じていた。きっと泰山王の中で何かあるのだろう。それが整理出来て、初江王がずっと隣にいれば、いつかは泰山王からも話してくれる。今は少し、焦りすぎてしまっただけなのだ。それも含めて五官王はそう返事をした。

「そう、なんですかね。いつも僕が声をかけないと、何も言ってくれないんです。だから嫌われてるのかなって」
「いや、それは無い」
「どうしてそう言えるんですか?」
「初江王と話してる時の泰山王、一言一言が長い。俺と話す時はもっと短い。多分、泰山王は心を許すまでに時間が掛かるタイプなんだと思う。でも、初江王には許しかけてるように見える。だから、まあ、これからも頑張れ」

 最後は少し適当過ぎたかもしれない。だが、これ以上の言葉が思い浮かばなかった。

「なるほど。第三者がそう言うのなら、そうなのかもしれないですね。僕、仲良くなれるよう沢山話しかけてみます。五官君、ありがとうございます」

 にこりと笑うと初江王は手を振り去って行った。微笑み返しいなくなるまで見送ると、五官王はまた閻魔庁を歩き始めた。
8/12ページ
スキ