ひがんのひなぎくたち

五、囲まれた


 本日は日曜日。せっかくの休日だ。時間は大切に使いたい。そう思い、五官王ごかんおうは朝食を食べる為に食堂へと向かった。午前八時という事もあり、食堂は賑わっていた。取り敢えず、いつものメニューを頼み空いている席がないか辺りを見渡す。座る場所に目星をつけた時、見知った声が聞こえてきた。

 五官王は頭が痛くなるような気がした。

「五官氏よ、良い朝だな」

 そう挨拶してきたのは、同じ十王じゅうおう候補である五道転輪王ごどうてんりんおうだった。彼は髪を白に染めており、インナーカラーで水色を入れている。それだけでも目立つのに、前髪も一風変わっており、一度見たら忘れられない外見をしていた。その横には長い黒髪が綺麗な宋帝王そうていおうもいた。

「おはようございます、五官王」
「……おはよ」

 この二人は所謂オタクだった。現代のオタクではなく、ニコニコ動画最盛期のオタクなのだ。そこまでだったら、五官王も頭が痛くはならない。

 問題なのは、五道転輪王がマシンガントークをするタイプのオタクなのだ。

 これには困っていた。いつも一緒にいる宋帝王は、何故か助けてくれず、面白そうに五官王の反応を見ている。だからこそ、この二人は厄介だった。

 ――さようなら、俺の休日。

 席へ座るとやはりと言うべきか、二人は五官王の前へと座った。幸い、今は食べるものがある。二人の会話を聞き流す理由にもなる。いつもよりゆっくり食べよう。そう思いながら朝食のパンに口をつける。

「五官氏。聞いてはくれまいか。昨晩拙者と宋帝王、二人でゲームをしていたのだ」

 始まってしまった。

 だが、少しだけ話の続きが気になる。適当に返事をしつつ、続きを待つ。

「そしたら突如、死んだンゴという声が聞こえ――」
「おい、五道転輪王。今ここでそれ以上言ったらどうなるか、分かってますよね?食事中なんですよ。分かってるんですか。空気読めない太郎」

 少しドスの効いた声で宋帝王が注意をした。最後まで言えず、五道転輪王は不満げであったが、宋帝王が怖いのだろう。続きを言うことなく、黙って食事を始めてしまった。

 ――これ多分あれだ。二人の話じゃなくて、掲示板で見たネタかなんか言おうとしたんだろうな。

 今までの付き合い上、そうだろうという事はすぐに分かった。何故か五道転輪王は、掲示板ネタをまるで自分の体験のように話したがる。これが平成のオタクなのだろうか。だが、静かになったのは良い。よく分からないトークをされながら食べるより、静かに食事をする方が気持ちがいい。

 暫く静かに食事をしていた五道転輪王だったが、一番最初に食べ終えると、またそわそわし始めた。

「なあ、五官氏。やはり思うのだ。百合は良いものだと」
「ああ、綺麗だよな」

 花を思い浮かべ五官王は思わず笑みを浮かべる。まさかアニメ以外の話を振られるとは思っていなかった。五道転輪王は意外にも花が好きなんだと思っていると、宋帝王が噴き出した。

「絶対分かってないですよ」
「いや、それはまだ分からぬぞ」

 二人の反応を見て、五官王は花だと思った自分を恥じた。

 ――いや、別に恥じる事はねえだろ。普通花だと思うだろ。

 花以外の百合。一体何なのだろうか。五官王にはさっぱり分からなかった。恐らく、漫画かゲームのキャラクターだろう。だが、分からないまま話を進めるのは気持ち悪い。五官王は素直に聞くことにした。

「お前の想像してる百合ってなんだ?」
「女性同士の恋愛ぞ」
「ふーん、そ」

 これ以上何か言えば話が広がってしまうと思い、短く返す。二人は何故だか目を丸くして驚いていた。それに思わず首を傾げてしまう。

「五官王、同性愛に嫌悪感とか無いんですか?」
「なんで?」
「我々が生きていた時代、同性愛作品が好きだというと、気持ち悪がられたのだが」
「令和にそんな奴あんまいねえよ」

 そう返すと二人は嬉しそうな表情へとなった。五道転輪王は、平成初期生まれであり、宋帝王は昭和生まれだった。そんな二人からしたら、五官王の反応は稀なのだろう。何故か握手を求められた。

「では、偏見のない五官氏よ。この後ぜひ我々と、最高の百合アニメを見て欲しい」
「はいか、イエスしか認めません」

 二人の圧が恐ろしい。断るのが苦手な五官王は、平和な日曜日にさよならを告げると、小さく頷いた。
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