ひがんのひなぎくたち
五、囲まれた
本日は日曜日。せっかくの休日だ。時間は大切に使いたい。そう思い、
五官王は頭が痛くなるような気がした。
「五官氏よ、良い朝だな」
そう挨拶してきたのは、同じ
「おはようございます、五官王」
「……おはよ」
この二人は所謂オタクだった。現代のオタクではなく、ニコニコ動画最盛期のオタクなのだ。そこまでだったら、五官王も頭が痛くはならない。
問題なのは、五道転輪王がマシンガントークをするタイプのオタクなのだ。
これには困っていた。いつも一緒にいる宋帝王は、何故か助けてくれず、面白そうに五官王の反応を見ている。だからこそ、この二人は厄介だった。
――さようなら、俺の休日。
席へ座るとやはりと言うべきか、二人は五官王の前へと座った。幸い、今は食べるものがある。二人の会話を聞き流す理由にもなる。いつもよりゆっくり食べよう。そう思いながら朝食のパンに口をつける。
「五官氏。聞いてはくれまいか。昨晩拙者と宋帝王、二人でゲームをしていたのだ」
始まってしまった。
だが、少しだけ話の続きが気になる。適当に返事をしつつ、続きを待つ。
「そしたら突如、死んだンゴという声が聞こえ――」
「おい、五道転輪王。今ここでそれ以上言ったらどうなるか、分かってますよね?食事中なんですよ。分かってるんですか。空気読めない太郎」
少しドスの効いた声で宋帝王が注意をした。最後まで言えず、五道転輪王は不満げであったが、宋帝王が怖いのだろう。続きを言うことなく、黙って食事を始めてしまった。
――これ多分あれだ。二人の話じゃなくて、掲示板で見たネタかなんか言おうとしたんだろうな。
今までの付き合い上、そうだろうという事はすぐに分かった。何故か五道転輪王は、掲示板ネタをまるで自分の体験のように話したがる。これが平成のオタクなのだろうか。だが、静かになったのは良い。よく分からないトークをされながら食べるより、静かに食事をする方が気持ちがいい。
暫く静かに食事をしていた五道転輪王だったが、一番最初に食べ終えると、またそわそわし始めた。
「なあ、五官氏。やはり思うのだ。百合は良いものだと」
「ああ、綺麗だよな」
花を思い浮かべ五官王は思わず笑みを浮かべる。まさかアニメ以外の話を振られるとは思っていなかった。五道転輪王は意外にも花が好きなんだと思っていると、宋帝王が噴き出した。
「絶対分かってないですよ」
「いや、それはまだ分からぬぞ」
二人の反応を見て、五官王は花だと思った自分を恥じた。
――いや、別に恥じる事はねえだろ。普通花だと思うだろ。
花以外の百合。一体何なのだろうか。五官王にはさっぱり分からなかった。恐らく、漫画かゲームのキャラクターだろう。だが、分からないまま話を進めるのは気持ち悪い。五官王は素直に聞くことにした。
「お前の想像してる百合ってなんだ?」
「女性同士の恋愛ぞ」
「ふーん、そ」
これ以上何か言えば話が広がってしまうと思い、短く返す。二人は何故だか目を丸くして驚いていた。それに思わず首を傾げてしまう。
「五官王、同性愛に嫌悪感とか無いんですか?」
「なんで?」
「我々が生きていた時代、同性愛作品が好きだというと、気持ち悪がられたのだが」
「令和にそんな奴あんまいねえよ」
そう返すと二人は嬉しそうな表情へとなった。五道転輪王は、平成初期生まれであり、宋帝王は昭和生まれだった。そんな二人からしたら、五官王の反応は稀なのだろう。何故か握手を求められた。
「では、偏見のない五官氏よ。この後ぜひ我々と、最高の百合アニメを見て欲しい」
「はいか、イエスしか認めません」
二人の圧が恐ろしい。断るのが苦手な五官王は、平和な日曜日にさよならを告げると、小さく頷いた。
