ひがんのひなぎくたち
二十八、ありがとう①
仕事を一通り終え、
「仕事は充分やってくれてるから、文句はないんだけどなあ」
そんな声が、聞こえたような気がした。意味が分からず、もやもやしたまま閻魔庁へと戻った。自室へと戻りベッドへ腰掛け、先程の言葉を思い出す。
――何が足りねえって言うんだ。
思わずため息を吐く。
「
不意に、母親の声が聞こえてくる。五官王は思わず振り返った。だが、誰もいない。息が、乱れる。心臓の音が、うるさかった。
母親は五官王を殺した後、自殺をしていた。だが、十王候補であった五官王と母親は、四十九日の道のりを一緒に歩くことはなかった。閻魔大王の裁きを受ける日に、五官王はこっそりと様子を見ていた。だが、あの時あの場にいた事を、直ぐに後悔した。
生前薄々とは感じていたが、やはり母親は五官王の事を息子とは見ていなかった。一人の異性として見ていたのだ。未だに思い出すだけで、胃の腑が暴れだしそうだった。
そこまで考えて、五官王は首を横へ振った。違う事を、考えなくては。
あれは、五官王が四十九日を迎えた日だった。まだ冥府に残るか、少しだけ迷いがあった。そんな五官王を見兼ねた閻魔大王は、ひとつ提案をした。
今から現世へ行くと良いと言ったのだ。運が良ければ、五官王の姿が見える人と出会えるかもしれない。もし会えたら、少しだけ話しをしてくるといい。そう言われた。
現世へと行くと、そこは公園墓地だった。ゆっくりと歩く。風が、強く吹いた。
「駿?」
確かに、名前を呼ばれた気がした。振り返ると、そこには
「由佳、元気だったか?」
優しく、声をかける。
「元気な訳っ、ないよ」
「……そうだよな。悪い」
涙が溢れて止まらないのだろう。由佳は何度も涙を拭っていた。本当だったら、自分がその涙を拭ってやりたい。しかし、霊体では触れられなかった。
ゆっくりと、由佳の元へと近づいて行く。こんなにも近くにいるのに、触れられない。それが、とても悔しかった。死んでいなければ、由佳を泣かせることもなかったし、触れることだって出来たのだ。
「なあ、由佳。少し、話そう」
泣きながら、由佳は頷く。少し歩いた先にあったベンチへ座る。二人は、ぽつぽつと思い出を話し始めた。