ひがんのひなぎくたち

二十七、バレンタイン騒動③


 閻魔王はお菓子作りを二人に任せると、すっかり縮こまってしまったたかむらの隣へと座った。心配げに篁を見る。こういう時に、なんと声を掛ければ良いのか分からなかった。

 ――いつも篁君、どうやって励ましてくれてたっけ。

 思い返そうとするも、上手く思い出せなかった。何も出来ず、じっと篁を見ていると、ぽつりと零した。

「知らない世界には、無闇矢鱈と踏み込んでいくものではありませんね……」
「……うん、そうだね」

 それだけ言うと、篁はまた黙ってしまった。

 ――そう言えば篁君って、いつも何も言わないで一緒にいてくれてたような気がする。何も言われない方が、確かに楽だったな。

 何も言わずに、閻魔王は隣にいた。特に話さず時間が過ぎていく。暫く経つと、五官王ごかんおう変成王へんじょうおうがキッチンから出て来た。無事に作り終えたみたいだ。五官王の手には、ザッハトルテらしきものがあった。

「出来たぞ」

 そう言い、五官王が見せてくれる。だが、形がおかしかった。

「思ってたのと違う」

 素直にそう言う。すると、変成王は笑いながら言った。

「僕もそう思う。それにしたって、この気持ち悪い顔、一体誰が描いたんだろう」

 ザッハトルテには、何故か顔が描いてあった。どことなく不気味だ。変成王の言葉に、五官王は眉をひそめた。

「お前が描いたんだろ。……んな事より食うか」
「あれ、そうだっけ?」

 五官王は変成王の言葉を無視して閻魔王へ向き直った。

「ほらよ」

 閻魔王の前に、ザッハトルテが差し出される。二人が作ったのだから、先に食べた方が良いのではないかと、閻魔王は思った。

「おれ、後で良いよ」

 そう返す。その瞬間、五官王は優しく笑った。

「閻魔が食いたいって言い出したんだろ。最初に食え」

 フォークを渡される。本当に、良いのだろうか。二人を交互に見る。食べていい。そう言っているように見えた。

「ありがとう」

 一口分取り、口へと入れる。現世で食べたものとは味が違ったが、あの時よりも美味しく感じられた。

「……美味しい」

 二人とも、微笑ましそうに見ていた。隣にいた篁も、なんだか嬉しそうだ。

 五官王は、篁の前にもザッハトルテを差し出した。

「篁さんもどうぞ」

 その一言に、篁は目を丸くした。

「よ、宜しいのですか?」
「寧ろ食ってくれないと困ります。四人分作ったんですから」

 にこりと笑い、五官王は篁を見た。それに篁も笑い返す。

「ありがとうございます」

 嬉しそうに食べる篁を見て、閻魔王はとても嬉しい気持ちへとなった。
 その後、四人で和やかに食べ始める。時折挟まれる冗談が、とても楽しかった。
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