ひがんのひなぎくたち

二十七、バレンタイン騒動②


「何を、されているのですか」

 確かめるように聞いてくる。どことなく、たかむらが怖く見えた。

「お菓子作ってるの!」

 無邪気に閻魔王は返す。だが、篁の表情は硬かった。

十王じゅうおう候補である皆様に何かあったらいけません。危険なので、私が代わりにやります」

 そう言い、三人をキッチンの壁際へと押しやる。何か言おうものなら、篁お得意の言葉で反撃されるだろう。誰も、何も言えなかった。

 レシピを見て篁は一人頷く。

「なるほど。先ずはチョコレートとやらを、溶かしやすいよう切れば良いのですね」

 包丁を取り出した。初めて見たのか、様々な角度にして見ていた。何か疑問に思ったのか、篁は首を傾げる。

「不思議な形の刀ですね」

 小さな声で言っていたが、五官王ごかんおうの耳にはしっかりと届いていた。不思議な形の刀。そう言ったような気がする。

 ――まさか、篁さんって料理した事ない?

 不安が押し寄せてくる。止めた方が良いような気もした。だが、恐ろしくて近付けなかった。

 刀を構えるように包丁を持つと、篁はそのままチョコレートを切った。まな板に包丁が突き刺さる音が響いた。しかし、肝心のチョコレートがそこには無い。五官王が不思議に思っていると、それは空から降ってきた。頭に、何かが当たる。

「痛っ」

 頭に当たったそれは、ぽとりと床に落ちた。下へ視線をやる。そこには、チョコレートが落ちていた。どうやら、篁が包丁を当てようとした瞬間、チョコレートは飛翔をし、そのまま五官王へ当たったようだった。これは、止めないとまずい。

「た、篁さん」

 呼び止めようとするも、篁は後ろを振り向くとにこりと笑った。

「完璧に作るので、少々お待ちください」

 チョコレートを拾い上げると、切ることを諦めたのかコンロに火をつけた。誰か止めてくれ。そう思い、閻魔王と変成王へんじょうおうに視線をやる。二人とも、驚き過ぎて動けないようだった。

 お湯が沸騰する。篁はまた首を傾げた。

「チョコレートはどのように扱えば良いのでしょう」

 レシピを見ても書いていない。チョコレートを手に取ると、そのまま沸騰したお湯の中へ入れてしまった。

 五官王は見ていられなかった。だが、このままではまずい気がする。篁は気にすることなく鍋を眺めていた。暫くすると、吹きこぼれ始めた。

「ど、どうすれば……」

 ややパニックになった篁は、何故かチョコレートの箱で抗おうと鍋の近くへと持っていく。その瞬間、手から箱が落ちてしまった。そのまま箱へ引火し、燃え広がる。篁は、完全に停止してしまった。

「消化!」

 急いで五官王は消化器を手に持つ。変成王もそれに続いた。

 無事に鎮火させると、五官王は篁に説教をした。終始、篁は大人しかった。

「篁さんはちょっと休憩しててください」

 そう言い、キッチンから追い出す。俯いて出て行く篁を、閻魔王は追いかけて行った。
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