ひがんのひなぎくたち

二十六、地雷


 休憩中、五官王ごかんおう変成王へんじょうおうは、いつも通りおやつを食べながら談笑していた。五官王の言ったことがツボに入ったのか、変成王は笑いが止まらないようだった。

「おい、そんな笑うことかよ」
「だって……。ははっ、駄目だ」

 思い出したのか、また笑う。笑い過ぎたのか、涙が出てきたらしい。変成王は眼鏡を外すと涙を拭う。

 眼鏡を外した変成王を初めて見たような気がした。綺麗な顔に、思わず見蕩れてしまう。

「変成王って、実は顔綺麗なんだな」

 思った事を、素直に言う。五官王は褒めたつもりだった。だが、変成王から笑いが消え、冷え切った表情へとなった。整った顔が、余計怖さを引き立たせる。

 言うべきではなかった。そう思うも、遅かった。変成王は無言で眼鏡を掛け直すと、五官王を見てはっきりとした声で返事をした。

「そう言われるの、好きじゃないんだ」

 地雷を踏んでしまった。五官王は、なんと返事をすれば良いのか分からず、言葉を失う。目が、合わせられなかった。だが、変成王はいつもしている表情へと戻ると、明るく言った。

「なーんちゃって!何変な顔してるの」

 感情が追いつかなかった。

「その……」

 言葉にならない言葉が出て来る。変成王はふっと笑うと、遠くを見た。

「五官君だから言うけど、僕この顔でずっと苦労してきたんだよね。だから、顔の事言われるの、好きじゃないんだ。さっきは変な感じにしちゃってごめん」

 申し訳なさそうに言ってくるが、謝らなければいけないのはこちらの方だ。

「いや、俺こそ悪い。変成王が気にしてること言っちゃって」
「……五官君って良い人だよね。だから、安心して色々言えるのかも」

 その言葉に、五官王はじわりと、何かが暖かくなったような気がした。生前、介護職という事もあり、感謝をされる事はよくあった。だが、こんな気持ちになったのは初めてだった。

 信用されている。そう、感じた。

 ――なんか、嬉しいな。

 ここに来てから、信頼関係を誰とも築けていなかった。頼られる事はあれど、どこか一線を引いていたような気がする。だからこそ、五官王は嬉しかった。変成王になら、色んな事を話せるかもしれない。

 何も言わない五官王に、変成王は言葉を探しているようだった。皿からクッキーを一枚取ると、五官王へ差し出してきた。

「僕の分のクッキーあげるから、元気おだしよ」

 おどけた様子で言う。そんな変成王が面白く、五官王は思わず笑ってしまった。

「ありがと」

 受け取ったクッキーを、一口齧る。なんだかそれは、とても美味しく感じられた。
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