ひがんのひなぎくたち

二十五、帰宅


 仕事を一通り終え、五官王ごかんおうは思い切り伸びをした。後は、この書類を届けに行くだけだ。

 ――今日も頑張った。夕飯、何にすっかな。

 そう思っていた時、回廊から騒がしい声が聞こえてきた。

 この声は、閻魔王とたかむらだ。どうやら現世から戻ってきたらしい。五官王は様子を見に、部屋から出て行った。

「よっ、閻魔。どこか行ってたのか?」

 その言葉に閻魔王と篁は目を合わせると、にこやかな表情へとなった。

「現世行ってきた。それで、篁君と美味しいもの食べて帰ってきた!」

 閻魔王の喋り方が、いつもと違った。間延びした感じの、子供っぽい喋り方ではないのだ。五官王は驚きのあまり、目を見開いた。篁の方を見ると、孫の成長が嬉しいといったような表情で、閻魔王を見ていた。

 ――閻魔、吹っ切れたのか。分からんけど。

 深く突っ込まない方が良いだろう。五官王はそう思った。何をしに行っていたか聞いてこない五官王に安心したのか、閻魔王はどこかほっとしていた。

「へえ、そうなのか。で、土産は?」
「ん?」
「え?」

 二人の間で、時が止まる。お互い、首を傾げた。これは、もしかしたら無いのかもしれない。

「無いよ」

 やはり、無かった。五官王は少しだけ落胆する。すると、ずっと見守っていた篁が、どこか悪戯っぽい表情をして、会話へ入ってきた。

「おや、五官様。もしや閻魔様からお土産が貰えるとでも考えていたのですか?それは考えが甘いですね」

 篁の言葉に、少しだけムカッとする。黙っていると、篁は五官王から視線を外し、閻魔王へと向けた。その表情は、五官王に向けたものとは違い、優しげだった。

「ささ、閻魔様。荷解きと着替えを済ませに行きましょうか」
「うん!じゃあ、五官君。また後でね」

 手を振ると、二人は五官王の前から去って行った。見送っていると、秦広王しんこうおうと閻魔王が会話をしているのが見えた。声は聞こえなかったが、どこかぎこちない表情だった。けれど、時間が経てば、きっと二人の関係も元に戻るのだろう。五官王はそう思った。

「閻魔のあの顔が、最高の土産なのかもな」

 ぽそりと呟く。少し前までは、どこか苦しそうだった。笑っているのに、笑っていないのだ。本人は気が付いていなかったのかもしれない。見ているだけで、こちらまで辛かった。けれど、今会った閻魔王は、自然と笑っていた。あの顔を思い出し、五官王はふっと笑う。

 ――良かったな、閻魔。

 部屋へと戻り、書類をまとめる。ぬいぐるみをひと撫ですると、五官王は部屋から出て行った。
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