第一幕 斯くも暗き水底で

 歓迎の宴を終え、うみを部屋へ案内し終えた後、海凪みなぎは自室へと戻った。一人になった瞬間、声を上げて笑った。部屋へ連れていく途中、海にこう言われたのだ。

 『さっき凪砂なぎさと話してたんだけど、あんたの事すげえ慕ってた。……だから、あいつを悲しませるような事はしたくねえ。海凪には生きててもらいたい。さっきは、その……。何も知らずに教えろって言って、悪かった』

 案外、良いやつなのかもしれない。凪砂がいなくなった後、きっと暫く口を聞いてはくれないだろう。でも、時間はたっぷりあるのだ。少しずつ和解していけば良い。

 海凪はベッドへと寝転がる。少し前までは、この和室に布団を敷いて眠っていた。だが、ある日突然海の神がベッドを与えてくれたのだ。とても寝心地が良く、海凪はすぐに気に入った。

 兄妹二人を預かっている海の神は、普段は別の場所にいる。時折、顔を出しては様子を聞いてきた。本当は陸へと戻してやりたいと言っていた。しかし、掟には従わないといけない。だからこそ、その条件を海凪に教えてくれたのだ。次に顔を出すまでに、なんとかしたい。いや、しなくてはならないと、海凪は思った。自分たちがここに来て数百年。陸は、それなりに変わってしまっただろう。それでも、行くあてはあった。島の一番偉い人の家だ。陸へとあがったら、そこを目指せばいい。まだあちらにいた頃、何度も聞かされた言葉だ。

 ――大丈夫。凪砂なら、私がいなくてもやっていける筈です。

 数百年共にいた凪砂と別れてしまうと思っただけで、とても辛かった。でも、それは時間が解決してくれるだろう。

 そこまで考えて、睡魔に襲われる。海凪はゆっくりと目を閉じた。
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