水底の式

閉幕


 「大丈夫ですか?」

 人の声がし、海凪みなぎはゆっくりと瞼を開いた。思っていた以上に明るく、顔をしかめた。どうやら押し上げられている最中、気を失っていたらしい。声のした方を見てみる。海凪と同じ位の年頃の女性が、心配そうに見ていた。にこりと笑ってみせる。

 「……はい。あの、この島で一番偉い人の家は、どこですか?そこへ、行かないといけないんです」

 陸に戻ってしまったのなら仕方ない。海凪は言われた事を思い出し、女性へ問いかけた。

 「あー……。それって、私の家かも。立てますか?無理そうなら人を呼んできますけど」
 「一人で立てます」

 立ち上がってみせる。すると、女性はほっとしたようであった。

 「案内しますね」

 そう言われ、海凪は女性と共に歩き出した。






 あれから、一年が経った。陸での生活は、ひどく退屈だった。もう一度、凪砂に会いたい。そう願いながら、毎日海辺へと足を運んだ。その度に、助けてくれた女性も一緒について来てくれる。

 海凪には、作戦があった。きっと、海凪がやっていたように、凪砂なぎさは陸へ声を掛けてこないだろう。ならば、海が荒れるのを待てばいいのだ。そうすれば、贄が必要になる。その時にこの女性と共に、立候補すれば良い。向こうへ行けたら、今度こそ凪砂を陸へ帰してあげるのだ。そう思い、海凪は海をじっと見つめた。

 だが、海凪は知らなかったのだ。現代に贄を捧げる儀式がとうの昔に廃止された事を。

 「凪砂……。そちらへ戻れたら、今度こそあなたを――」

 一度、風が強く吹いた。それだけ残すと、海凪は女性と共に家へと戻っていった。
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