第三幕 悠久の終焉
――まさか、喋ったりしてないですよね。
酔ったあとの記憶が何も無い。海凪は嫌な予感でいっぱいになった。部屋の中を行ったり来たりする。ふと、時計に目をやった。午前十一時半。そろそろお昼の準備をしなければならない。ため息をつきながら、海凪は台所へと向かった。
「……凪砂?」
「あ、お兄ちゃん。今日は私が作るね」
そう言い、凪砂は蕎麦を茹でていた。今まで凪砂が料理をする事は殆どなかった。
「私も手伝いま――」
「私がやりたいの。お兄ちゃんはあっちで待ってて」
背中を押され、台所から追い出されてしまう。戻ろうと凪砂を見る。だが、睨まれてしまった。これは大人しく引き下がるしかない。そう思い、海凪は食事をする部屋へと向かった。
椅子へと座り、ぼうっとする。ずっと、凪砂は無表情だった。けれど海が来てからというもの、少しずつ表情を表に出すようになっていった。それは、とても喜ばしい事だ。だが、同時に自分の前でする事のなかった顔を引き出した海が、憎たらしかった。また、ため息をつく。
少しすると、凪砂と海の声が聞こえてきた。どうやら一緒に料理を運んでいるようだ。
「お待たせ、お兄ちゃん」
目の前に、美味しそうなたぬき蕎麦を置かれる。
「ありがとうございます」
それぞれの席に蕎麦を置き、着席すると食事が始まった。蕎麦を啜ってみる。茹で具合は完璧だった。乗っている葱も綺麗に切れている。それだけで、海凪は成長を感じた。
「凪砂、とても美味しいです」
「……良かった」
嬉しそうに笑った。何故か海も得意気な表情をしていた。
――作ってもいない人間が何故あんな顔をするんですかね。
表面上は笑ってはいたが、内心は物凄く苛ついていた。本当なら今すぐここから去りたかった。だが、折角凪砂が作ってくれたのだ。全部食べたかった。無言で食べ続ける。
今までだったら二人は海凪の前ではあまり喋らなかった。なのに、今日は楽しげに会話をしていた。それが、余計海凪を苛つかせる。
――笑っていられるのも、今の内ですよ。
あと数日もすれば、二人は離れ離れになるのだ。それを思い出し、海凪は心を落ち着かせた。
完食すると、余韻に浸ることなく海凪は部屋から出て行った。もちろん、空になった食器を持ってだ。せめて自分の分は自分で洗いたい。そう思い、台所へと向かった。
