#05 誰も知らないあなたの仮面
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被害者・橋田は廃棄区画の住人達の人権について訴え、彼らの住まう廃棄区画の解体運動を牽引していた。
護衛や取り巻きすら連れずに一人で都内各地の廃棄区画に足を運んでいた被害者はだが、しかし裏で一部の利権屋達から賄賂を受け取っているのではと取り沙汰され、たった一人の廃棄区画視察はその隠れ蓑なのではないかと叩かれた。
発見現場である料亭周辺にはそれらしい犯罪係数保持者の形跡はなし。
しかし橋田が最後に訪れたとされている廃棄区画は監視カメラや街頭スキャナの設置が少なく、その足取りを辿る為の情報は一切残っていなかった。
当時のニ係が捜査に行き詰ったのも無理はない。
そしてさらに起こる、第二の事件。
冬の朝の、柔らかな光を背景に写された一枚。
千代田区外神田で発見された被害者はやはり先の橋田と同じ様にプラスティネーション加工を施され、損壊された後、遺棄。
『身元不明、無戸籍者、ね。……これはまた…』
苦笑混じりのため息を吐き、髪をかきあげる。
無戸籍者とはその名の通り、戸籍を持たない者のことだ。
現在日本では、出生届けの提出と同時にシビュラシステムにDNAとサイコ=パスを登録することが義務付けられている。
つまり通常であれば遺体が発見された瞬間にでも、現住所から家族構成、学歴職歴病歴と故人に関するあらゆるデータを照合することが可能なのだ。
それができないということは、被害者――この少女がある特殊な環境下で生まれ育ったということ、つまり、廃棄区画生まれの廃棄区画育ちであることを意味している。
この時代、シビュラに登録されていない人間が監視カメラや街頭スキャナのひしめく一般社会で暮らしていくのは不可能だからだ。
廃棄区画で消えた男に、廃棄区画で育った少女。
事件解決の糸口など掴めるわけもなく、捜査は混迷を極める。
「やってらんねェよ」と零す兄の顔が、浮かぶ。
『…………………そうだね。』
やって、らんないよね。