#05 誰も知らないあなたの仮面
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目の前に散らばる何枚かの写真は今時珍しい、紙に印刷されたもの。
そのうちの一枚を手に取ろうとして止め代わりに、傍らに置いてあったカップに手を伸ばす。
少しの苦味を含んだ暖かさが全身に染みていくのを感じながら、目を眇めた。
『………』
公安局広域重要指定事件102――別名、標本事件。
3年前に世間を騒がせたこの一連の事件の最初の犠牲者は、衆院議員・橋田良二。
廃棄区画解体運動の先鋒であった被害者は何者かに殺害され、特殊な樹脂で固められた後損壊・遺棄された。
遺体は全裸で、生前行きつけであった赤坂の高級料亭[イヤサカ]の前庭に三つ指をつけて正座させられており、さらに頭部は円形に切開され、くり抜かれた脳の一部が肛門に挿入されていた。
『当時この捜査を担当していたのは…ニ係。』
脳内に散乱している情報を、写真と文字を使って目に見えるものにしていく。
昨晩当直中にこっそりアクセスした、公安局未解決事件のデータベース。
ファイルを閲覧した履歴は当然残るだろうが、何の事はない。
むしろそうしなかった方が、不自然だと……
ちらりとこちらを見た静かな眼差しが脳裏に浮かび、知らず眉間に皺が寄った。
『…11月1日金曜午後10時、赤坂近郊の廃棄区画で消息を絶ち……遺体発見は5日火曜午前8時。』
その間たった82時間。
通常人体をプラスティネーション化――つまり標本化するには約ひと月、720時間以上かかるところを、たったの3日たらずで完成させてしまう特殊な薬剤。
『………』
遺体写真に落とした視線をそのままにしていると、リビングから微かな物音が響いたような気がした。
<大丈夫。また寝ちゃったわ。>
音声のみの黒の声に口元を緩めて椅子に、座りなおす。