#29 正義の在処
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「これ程驚異的な技術によって日々の食卓が賄われているというのに、その事を認識している市民は少なすぎますね。」
電子ボードから顔を上げ、笑いかける。
「全く。昨今はどんな科学の恩恵も、さも当然のことのように享受する連中ばかりでね。」
そっと本を棚に戻して振り返った少女の方を向いて言葉を切った老人が、こちらに目を戻す。
「君達のように関心を向けてくれる若者は本当に珍しいんだよ。」
「嘆かわしいことです。現代の日本の食糧事情を成立させた立役者をこんな風に引退させたまま、放置して一人にしておくなんて。」
気を良くした様子でブランデーの入ったグラスを傾けているのを見ながら立ち上がり、書棚に近づく。
ずらりと並んだ本達の背表紙を撫でながら、そのタイトルを目に触れさせていく。
「僕が注目しているのはね、ウカノミタマ防御ウィルスの保安体制の杜撰さですよ。いくら善玉ウィルスとはいえ、シーケンサーへの入力次第で攻撃対象を任意に変更出来るなら、害虫ではなく麦そのものを殺すよう調整する事も可能だ。」
見下ろした色素の薄い瞳に映った自分が、そこからこちらを、見返している。
「ウカノミタマは収穫をもたらす豊穣の神から、死を運ぶ悪魔へと早変わりする。」
「き、君は…」
「おまけに、ウィルスの調整と配給を行う管理センターには、閉鎖された旧大学の研究所をそのまま転用しているという。まだサイマティックスキャンによるセキュリティが実用化される前の施設だ。」
胸ポケットから取り出した銀の煌きを映した、その僅かな時間。
「保安体制は、暗証番号か生体認証が関の山。これならかつての責任者である貴方の手をかりて、簡単に突破出来ますよね?」
そこを、光が過ぎった。
「管巻教授。」