#15 楽園の果実
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最新のコンピュータを常に最適な状況で稼動させる為に整備されたこの部屋にも、当然のように窓はない。
ここで働く人物の”犯罪係数”を鑑みればそれは至極当然の事なのだろうが、と考えを巡らせかけて結局、止める。
潜在犯が更正して社会復帰――
そんな崇高な人権理念を掲げたところで、この都市は最後にはきっとそれを降ろす。
あまりにも容易く、無機的に
まるで、何事もなかったかのように。
IDカードを扉横の認証部にかざし、[LOCK]の文字が浮かび上がるのを確認して踵を返す。
響く機器類の稼動音にはすっかり耳が慣れてしまっているのか、それともアルコールを摂取し過ぎたのかは判然としないがこの部屋の主は先刻から起きる気配がない。
その胸元にカードをそっと戻し、無防備な寝顔を観察してみる。
きめの細かい肌は陶器と言うよりも赤ん坊のそれに似ていて、本当にキレイだと思った。
『………』
ややあって曲げていた膝を伸ばし、部屋中央に設えられた椅子へと腰を下ろす。
上方に二つ、左右に四つ備え付けられたモニタの光に照らされながら、キーボードを操作する。
ややあって後方から聞こえてきた微かな音の出所を振り返り今度は薬剤の収納されている棚に近づく。
目当ての物はすぐに見つかり、躊躇せず錠剤を飲み込んだ。
そのまま部屋奥のまるで拷問器具のような装置に近づき、計器類をセットしながら髪を束ねる。
そう言えば最近美容院に行けていないなと、他人事のように思った。
『…重…』
薬が効いてきたのか、思考がどこかやんわりとしかし強制的にクリアになっていく。
モニタリングに表示された自分の心電図とサイコ=パスをしばし眺め、ベッドに身を横たえる。
イメージするのは暗く浮かび上がる路地ではなく、”そこ”へと沈んでいく、あの場所。
目を閉じるのと同時に少しだけ指先が、震えた。