#11 パンドラの箱
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足元を撫でていく夜風が、心地良い。
つやつやと柔らかな色の光を放つ爪は初心者にしては綺麗に出来ているな、とぼんやり思う。
『……遅いですねぇ。』
腕のリングに表示された時刻を見て、視線をまた、夜空に戻す。
いつまで経っても返ってこない返答に苛立つと言うより疑問に思って隣を見ると、その顔がやっと、こちらを向いた。
「……お前」
『?』
首を傾げると、端整な顔があからさまにうろたえてまたそっぽを向く。
「…いや、いい。」
『……いいって何がですか。』
手を額にあてた狡噛さんの吐いた息が、闇色に浮き上がる。
「なんでもない。」
『………。』
眉を潜めて身を浸した落ち着かない沈黙が、いつしか何故か、気にならなくなってきた頃。
「明るいな」と聞こえてきた声は小さくて、多分独り言に近かった。
『……ですね。』と応えた自分の声も、多分。
だけど別にこの月明かりは、そんなに見慣れないものじゃないのに。
ああ
『でも東京の明かりの方がずっと』
あの部屋には
『眩しいですよ。』
窓が、無いんだ。