#07 狂王子の帰還
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「佐々山執行官…ああそりゃ忘れられるわけないわあ、標本事件は。」
爪にネイルを施していた唐之杜さんが、手を止めて自身の指先を見つめた。
「標本事件?」
「あたしらや現場じゃそう呼んでたんだけどねー……朱ちゃん、プラスティネーションて分かる?」
「生体標本の作成方法…でしたよね?」
「そ。死体に樹脂を浸透させて、保存可能な標本にする技術。」
蝶やトンボが額付きのケースにピンで留められ、飾られている様子を想像する。
「あれを活用した猟奇殺人だったのよ。」
片手で操作され、呼び出された画面を見て、思わず口元を抑える。
「バラバラに切り開いた遺体をプラスティネーションで標本にして、そいつを街のど真ん中に飾り付けてくれたわけよ。」
人間だった頃が、かろうじて想像できるかできないかというレベルではない。
まるでマネキンのように加工され、組み上げられた人体は、それが死体だと忘れさせる。
そしてそのこと自体が声を失う程に、残酷だった。
「盛り場を飾るホログラフイルミネーションの裏側にね……」
「ひどい…」
「何千人という通行人が、環境ホロを眺めているつもりで実はその下に隠れてるバラバラ死体とご対面してた、っていう。バレた時のエリアストレスは4レベルも跳ね上がってねぇ、報道管制まで敷かれたほどよ?」
数瞬の思考停止状態を経て、忘れていたもう一人の存在を思い出す。
「あの、食事中にすみません…。」
「んん?」
ラーメンをすすりながら、きょとんとこちらを見上げるその瞳を、見返した。