#01 犯罪係数
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「お譲ちゃんの噂は聞いてるぜぇ。訓練所じゃ主席だったそうじゃないか。」
「ええ…まぁ……」
言葉を濁すと、僅かにその顔が振り向けられる。
「老婆心で言っとくが、あそこで教わったことは全部忘れた方がいい。現場じゃ何の役にも立たんよ。」
絶え間なく周囲を見渡す視線は静かだが鋭く、鞘に収めた刀を思わせた。
「理不尽だと思うかい?ところがな、そもそも俺達の仕事ってのは理不尽の塊なんだ。誰が何を思い、何を願うのか…人の心の全てが機械で見通せる時代だってのに、それでも誰かを騙したり憎んだり、傷つけようとしてる連中がわんさといる。これが理不尽じゃなくてなんなんだ?」
頭上に位置した歩道橋の上に立つ長身を認めて、口を開く。
「でもそれは、仕方のないことなんじゃないでしょうか。」
研修所で隣り合わせた、今まで逢ったことのないタイプの、女の子。
初めて会った、[外]から来た人間。
それ故なのだろう突拍子もない発言は、終始担当教官達をうろたえさせ、同期生を戸惑わせた。
「……判断される側の私達が生身の…生きている人間である限り。」
しかし自分にとっては、彼女の口から語られる言葉は何というかとても…新鮮で。
それは時に重みのない電子教本に綴られたどの文章よりも遥かに雄弁で、頭ではなく、心に馴染んだ。
「機械が…シビュラがしてくれるのは、物事に対する最適対処方の提示までです。そこから先は、私達自身でどうにかしていくしかない。その、理不尽さにしても……多分きっと同じなんじゃないかと、思います。」
「………」
こちらを見下ろす瞳に気づき、慌てて眼前で手を振る。
「あいやっ…その……反論とかではなく、その…すみませんええと…」
「いや、上出来だ。」
「……はい?」
「つまり俺が言いたかったのは、そういうことだ。人間相手のこの先、理詰めのセオリーは通用しない……しかしそれだけわかってりゃ、及第点だよ。」
驚きさえ含んだ賛辞に、頬をかく。
「…いえ、あのですね…これは……」