第一章
夢小説設定
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二
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翳した手に落ちる、光。
空港ロビーの見事な環境ホロよりも余程、懐かしい。
冬でも泳げる程の気候を売りのひとつとしているあの都市の太陽とは違う、柔らかな色。
6年前ここを発った時のことが、ついこの間の事ように感じられる。
やっぱり日本が一番。
なんて今まで、思い出しもしなかったくせに。
『………』
澄んだ空気を呼吸しながら肩に下げた鞄をしょい直し足を踏み出した、瞬間。
引かれるように横向けた視界に入る明るい短髪に、ひどくセンスの悪いネクタイ。
「光」
自分から名前を呼んでおいて目を逸らす、その姿。
少しの精神的優位さを覚えながら、爪先の向きを変える。
それでも刷き慣れたブーツは、いつもより確実に、重くて。
その足元に捨てられた煙草が靴裏で踏みにじられるのを見ながら、口を開く。
『…迎え、要らないって言ったと思った。』
伏せた目をそのまま動かすと、横に停車した赤い軽の運転席からこちらを窺う女の人が見えた。
一見すればただのキャリアウーマンといった風情の彼女の職業はだが、すぐに察しがついた。
公安局監視官――健全な精神と模範的社会性を併せ持った、厚生省キャリア。
ふいに胸の奥底に感じた衝動を誤魔化すように、首から下げたクロスを無意味に動かす。
「……6年振りに会った兄貴への挨拶がそれかよ。」
降ってきた言葉には関せず、控えめな視線に向かって頭を下げる。
彼女が本当に(十中八九そうだろうが)公安局の刑事だとすれば、自分にはそうする義務が出てくる。
「おい。」
「ちょっと佐々山くん。」
呆れたような声をかけながら車から降りてきたその人は、パンツスーツが良く似合っていた。
颯爽とした無駄のない身のこなしに合わせて前下がりのボブが軽やかに、揺れる。
「初めまして、青柳璃彩です。遠いトコ疲れたでしょう?」
優しい笑みに答えようとした瞬間乱暴に、肩から消失した重み。
必要最低限の荷物の入ったそれは、去年の誕生日に父が買ってくれたものだ。
若い子に絶大な人気を博する、それでもいざ入手するとなると金銭的に難しい、ブランド物の、旅行鞄。
「…っとに、もー。」
『………。』
後部席に鞄を投げ起き、助手席のドアを開けた兄の横顔に知らず目を、細めた。
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