第一章
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第一章 一
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流れた紫煙がくすんだ冬の空に、滲むように溶けていく。
「………」
到着してから何度となく繰り返されるこの光景にもそろそろ、飽きてきた。
とはいえ特に他にすることもないのが現状であり、加えて、当直明けの頭を眠りの縁から遠ざけておく、という実際的な必要性もあって。
公安局刑事課一係所属執行官・佐々山光留は、スーツの胸ポケットを探った。
箱の上面を軽く叩き、新しい一本を口に銜えた、その瞬間。
均整の取れた長身が派手に前へと、つんのめる。
「!」
突如背中を殴打した固いものの正体は分かってはいたが、信じられないような思いで振り返る。
「ああゴメン大丈夫?」
「…だ、だいじょぶなわけ…」
車内から聞こえてきた声に口を開くが、蚊の泣くような声しか出ない。
運転席から体を伸ばして窓を開けたのは青柳璃彩――同じく公安局所属・監視官だ。
悪びれる風もなく見上げてくる彼女をなんとか呼吸を整えながら、見下ろす。
最初からそうすれば良いものをわざわざ自分が寄りかかっていたドアを押し開けたそこには確実に、何かしらあったと思うのだが。
違う刑事部屋にいても聞こえてくる彼女に関する、数々の武勇伝。
今の下りは忘れることにしようと佐々山の脳内で結論が下されるのに大して時間は、かからなかった。
「そろそろロビー行ったら?」
腕の時計を指し示した彼女が見やった方向にやりかけた彼の目が、不自然に彷徨う。
それを眺めていた青柳の顔がややあって解れ、綺麗にルージュの引かれた唇が、柔らかな弧を描く。
「荷物も多いだろうし……6年振りなんでしょ?」
こちらを見上げる上司…正確には他係の上司の顔に珍しく浮かぶ、女性らしい笑み。
それに構うことができないのが、心底、悔やまれた。
「…いや…あー……」
せめてもの思いで笑みを浮かべて言葉を濁し、頭を掻く。
「…佐々山くん?」
「何でしょう!青柳監視か「たまの休日、犠牲にしてんのよ。」
「こっちは」と続いた冷たい声に思わず身を引いた時、背後の空気が乱れるのを感じた。
反射的に振り返った目に映る、まるで吐き出されるように出てくる無数の人間。
性別も年齢も様々なその人込みの中を行く一人に、まるで見えない糸で引かれるかのように佐々山の視線が、吸い寄せられていく。
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