Prologue
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Prologue 2
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ほぼ真四角に切り取られた空を仰いだ瞬間、頬の上を流れていく雫。
頂の見えないこの巨大な塔は元々、この地域に根ざした新聞社所有の物だったと言う。
それが自由の塔などという仰々しい名で呼ばれた時代を経て今に至るまでおよそ、1世紀半。
過ぎた時間はしかし、人々の高さへの欲求を変えるには十分ではないらしい。
「Hey missy!」
馴れ馴れしい露天商の呼びかけに思考と視線を戻した少女――佐々山光は、止めていた歩みを再開させた。
笑みを浮かべて手招きする彼には応えず、先を急ぐ。
すれ違う通行人が時折彼女に目を向けるが、当の本人に関する様子は一切ない。
車の行き交うメインストリートへと出て軽く手を上げ、止めたタクシーの後部席へと身を滑り込ませる。
「Where to, miss?」
『To Airport, please.』
流暢な英語でもって発せられたその声はやや高めで甘やかだったが、ひどく平坦な響きを伴っていて。
初老にさしかかるかどうかといったドライバーは僅かに好奇心をそそられてミラーを覗く。
鞄の中身を改めていたその顔が上げられた瞬間、驚きに目を瞬く。
――日本人だ。
一体如何なる理由でこんな処にあの国の人間がいるのか。
旅行者には見えない。
ビジネスあるいは、と巡りかけた想像が、ミラー越しにぶつかった視線に断ち切られる。
日本人にしては明るめの瞳に宿った微かな不審に笑みを刷き、口を開きながら、思う。
古今東西、女性という生き物の年齢は、つくづく判別し難い。
「Certainly.」との返事と共にタイヤが回りだしたのを感じながら、車外へと視線を固定する。
ホログラムで彩られた、鮮やかな都市。
しかし所詮は真似事に過ぎず、不完全なそれでしかない。
今自分が行くhighwayはちょうどその境目に位置しているので、尚更だ。
少し視線を下げたところで、突然の雨に慌てふためいて店をたたむ商売人たち。
掻き入れ時に備えて熾された火が、断末魔のように白い煙をたなびかせながら消えていく。
それより下の層は、ここからでは見えない。
――俺
6年振りに聞いた声。
誰か、知らない人間のもののように思えたそれをぼんやりと反芻しながらも目はまた、底へと下がっていく。
『………』
もう上手く、思い出せもしない思い出。
曖昧でおぼろげでしかない、その姿。
今もそれは、変わらない。
なのに
なのに……?
違う。
だから、だ。
曇りガラスに頭を預ける少女の膝におかれた、その右手。
すがるように握り締められたピンクの携帯に気づくものは誰も、いない。
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Are you...still here?