第五章
夢小説設定
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四
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バイザー越しに射し込んだ光に反射的に目を細めながらも、バイクを進ませる。
エンジンを切ってメットを脱ぎ、ジャケットのフードを整えつつ階段を昇りながら初めて、無駄に広い駐車スペースの片隅に止めてある一台の軽に気がつく。
「………」
若い女性が好みそうな全体的にころんと丸いフォルムは、確実にこの家の持ち主の物ではない。
知らず眉を寄せてインターフォンに伸ばしかけていた手を下ろした、次の瞬間。
「…なんだやっぱりお前か。」
開いたドアから覗いた顔に頭を下げ、口を開く。
「どう「アポなしで突然くんなよ。せっかく若い子と二人で楽しんでたのに。」
「…え……」
告げられた言葉の意味が咄嗟に処理できずにいると、雑賀先生が立ち位置を変える。
ふわりと動いた風に乗って届く、淡い香り。
「じゃあ、光くん。」
『はい』
『ありがとうございました。』と丁寧に言って頭を下げるのを見ていると、その顔がこちらを向いた。
色素の薄い瞳が微かな笑みを称えて軽く伏せられるのを見て、同じ様にしながら道を開く。
「狡噛。」
「はい?」
「お前、今いくつだっけ?」
フレアスリーブのワンピースの裾を揺らして行く背中を見送っていた目を、戻す。
「今、ですか?23…ですけど。」
「ふむ。」
顎に手をあてたまま踵を返してさっさと中へ戻っていくのに慌てて靴を脱ぎ、追いかける。
「"スワン"だってよ、あの歳で。」
「"スワン"…プルーストですか?」
砂利の音を遠くに聞きながら思い出したのは、髪の隙間から覗いていた控えめな輝き。
王冠と地球をモチーフにしたあのオーブは、1900年代後半から続くイギリスの有名ブランドの物だ。
「なんと言うか…ずいぶん完成されてる感じの女性でしたね。」
腕のリングを確認しながら口にしたその言葉に、返ってこない応答。
顔を上げて見た呆れたような表情に、目を瞬く。
「まだまだ若いね、お前も。」
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