第四章
夢小説設定
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三
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始まりは、欧州で起こった全世界的経済破綻。
まるでドミノゲームのようにあっけない程に、崩壊していく各国の政府機能。
激化の一途を辿る国際紛争からの自衛策としてこの国が選んだのは、国交の断絶だった。
従って外国人の入国には厳しい制限が強いられるのだが、逆に出ていく者に対しては驚く程に寛容。
サイコ=パスさえクリアカラーなのであれば、誰がどこへ行こうがお構いなし。
今は他国との唯一の玄関窓口となった九州国際空港ターミナルのエントランスを通過できた時点でもう、事実上出国手続きは終了しているのだ。
寛容と言うより放任。
しかしそれは道理に適ったことで、そこに疑問を差し挟む余地などないのも事実で。
無政府・無法地帯である海外諸国でも生きていける。
そんな資金とコネクションを持ちえ且つ、この国を出ることを選ぶ。
そんな数寄者が存在することなど、誰が知ろう。
潜在犯認定を受けた兄から、両親と共に逃げるように渡ったかつての超大国は見る影も無かった。
最初の数年のことはもう、ほとんど覚えていない。
あんな幼い時分にあんな光景を見せられて、よくもまあ、と思う。
いや、だからこそなのだろうか。
自分を担当した入国管理官員。
自分の倍以上は生きているであろうその顔に刹那浮かびあがった、表情。
その瞳に終始揺らめいていた、感情。
まるで
まるで私が――
苦笑しながら閉じていた瞼を開ければ、地上数十メートルに設えられた鉄骨に照り映えるホログラムではないネオン。
その力強くも歪な輝きはどこか脳裏に描く人物と、似ていた。
「美しいと、思うかい。」
『……分からない。』
大気中に溶けていくかのような、声。
そして見下ろす街は深い水底に、沈んでいるかのように、遠い。
『…でも……「判断の道徳は、基準を持たない精神の道徳を軽蔑する。」
視線を向けると琥珀色の瞳が、嬉しそうに細くなった。
それに誘われるように、唇を開く。
『…精神に科学が属しているように、判断には感情が…属しているから。』
紡いだ続く言の葉は、まさに。
「本が好きなんだね。」
『……この街にパスカルを読む人がいるなんて、意外。』
問いには答えずにそう返すと、風音に紛れて笑い声が届く。
「大丈夫。」
ゆっくりと波打つ、碧の淵。
その底に射す光はきっと
「人は、いるよ。この街にも」
こんな色をしている。
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