第四章
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第四章 一
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『……ふぅ…』
勾配の激しい道を闇雲に歩くこと1時間。
額に浮いた汗を拭い、息を吐く。
ゴミの散乱する通路のそこかしこに掛けられた梯子に、思いもかけない所に突然現れる階段。
ここが元は埋め立て地だったことの証明は最下層のあの、なんとも言えない色をした汚水でぬかるんだ地面くらいだろう。
前からやってきた白髭をたたえた老人に道を開けながら、三段ほど下の通路一帯で忙しく商売道具を広げる料理人達を見下ろす。
上層のダクトから降ってくる埃混じりの灰にはまだ慣れないが、辺りに満ちるすえた臭いはすでにほとんど気にならなくなってきた。
さり気なく鞄から出した携帯で、剥き出しの炎に鍋を置いた女性を撮影する。
吐瀉物にまみれて横たわる浮浪者、奇形のネズミに、あからさまに自らの生業をアピールする若い女性。
『ちょっと遠いな…』
世界の中心であるこの都市が抱く、[無い]筈のこの場所は、自分の暮らすあの場所にあるそれとよく似たものだ。
なぜこちらもあちらも、解体なり再開発なりをしようとしないのか。
一つには、ここを引っ掻き回して潜在犯ないしはその予備軍を追い出したところでそれをどう処理しようもないこと。
そしてもう一つには、ここが[存在しないモノ]であっても[必要なモノ]である、という事実。
この街は理想郷でも、なんでもないのだ。
左右に顔を向け、高所へと通じる道を、探す。
複雑と言うよりもむしろ、乱雑な構造。
いざ高い梯子を昇ってみたらその先は行き止まりであったり、下へと降りていく梯子しかなかったり。
まるで迷路のような構造を楽しめていたのは、最初だけだ。
無駄な労苦を避けようと梯子や階段に近づいては離れを繰り返す##NAME1##の目が、ふいに、止まる。
くすんだ色の中で浮き上がるように輝く、銀の髪。
すらりと背の高いその青年の顔は、過剰な程整っている。
細く長い指が示す、青錆びで覆われた階段。
『………』
体を向けると薄い唇が微かに、綻ぶ。
空気を退かすように優しく動かされた手が、手すりにかかる。
視界から消えていく剥き出しのくるぶしを追いかけるように、足を踏み出した。
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