第三章
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第三章 一
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一人当ても無く歩く街は当然のことながら、日本語で溢れかえっている。
天下の"六越呉服店"の巨大ホロ広告に始まり、所狭しと立ち並ぶ様々な商店を華やかに彩る外観装飾ホロ。
時差ボケで一日死んでいた昨日とは違って今日は晴天。
この都市ご自慢の環境ホロは、名誉挽回とでも言うかのようにフル稼働だ。
飾り立てられ、聳え立つビル群の合間に覗く、巨大な塔。
厚生省本部――ノナタワー。
大混乱の21世紀を乗り越え、惑星上唯一の法治国家となったこの国が誇る、新世界秩序のシンボル。
『………』
知らず止めていた足を、踏み出す。
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「おい狡噛……狡噛。」
訝しげな声に、窓外へ向けていた目を戻す。
昼時の日光の明るさを、こうも暴力的に感じるなんて。
別に何か後ろ暗い事をしているわけでもないのになんとなく、理不尽だ。
「悪い…何だ?」
これ見よがしな溜息に、昨日の自分を思い出す。
そう言えば”プライベート”な用事とは、一体なんだったのだろう。
「お前らじゃヤだ」とはまた、言ってくれる。
「武蔵野の件、どうなった。」
「容疑者の親族関係から洗ってはいるが……」
肩を竦めて成果を示した狡噛に前を見据えたまま眼鏡を押し上げたのは、同じく一係所属監視官である、宜野座伸元。
狡噛とは同期生であり、加えて学生時代からの付き合いでもある。
「俺の方も同じようなものだ。さっき、エントランスの所で霜村さんとすれ違ってさ。」
「なんて?」
「どうりで最近大人しいと思った、だと。…よく言うよ、ウチの事件捜査状況なんてとっくに承知してるくせに。」
苛ただしげな表情で息を吐いたその横顔を見て、思う。
たかが数年でお互い、えらく老けたもんだ。
「なぁ、どっかで飯でも食ってくか。」
「馬鹿を言うな。」
気分を変えようと明るい声で示した提案が一刀の下、切り捨てられる。
「………。」
窓枠に肘をのせ、頭をもたせかける。
後、7年。
あまりに長い歳月は、いっそ馬鹿馬鹿しい。
――無理かもしれないな。
目を伏せた狡噛の視界の中で陽光の欠片が、同意を示すように無責任に、瞬く。
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