第八話
夢小説設定
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響き渡った音に、耳が一瞬馬鹿になる。
「ぼ、菩薩…!」
駆け寄ってこようとした二郎神を制し、熱を持った頬に手をやる。
「去りなさい。」
真っ直ぐにこちらを見る目は鏡のようにただこちらを映して、そこに在るだけ。
「永劫この地に立ち入ること赦さぬ。」
「母上…早く焔を、金蟬を……天帝の処へ行って下さい!」
悲鳴のような声で叫んだ咲姫の後ろで黙り込んだ蓉姫は、もうわかっているのだろう。
縋る様に母の袖を握りしめていた咲姫の顔が色を失う。
「そんな――母上!?母上!!!」
「咲…」
緩く首を振った姉姫に目を見開いたその、鈴音を思わせる声が割れる。
「――っ」
瘧にかかったように震えた背中から逃げるように、踵を返す。
「菩薩…良いのですかこれ――」
言葉を切った二郎が打たれたように歩を止め、膝をつく。
「兄上……」
夜のように深い色をした両眼に映る自分が、急に小さくなったように思えた。
横を行き過ぎていく風に目を伏せ、足を踏み出す。
「慈航」
久方振りに呼ばれた名前に振り返ると、先に手離した筈の笑みに出会う。
「やはり、金蟬に盗られたな。」
石段を行く兄が振り返ることはない事は、わかっていたから。
「さて、尻拭いはしてやったぜ。」
それでもこのくらいの礼は、貰った事にしておくべきかもしれないなと、思った。