序
夢小説設定
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――退屈だ退屈だって、子どもみたい。
そう言うと、不機嫌な顔がますますその色を濃くする。
――……言ってねえ。
私はなんと、言ったのだっけ。
ああ、そうだ。
――顔に書いてあるわ。
確かそう言った。
あの人の紫紺と言うには透明すぎる瞳が微かに揺れたことも、覚えている。
そう言えばもう随分、顔を合わせていない。
そう思った時、ふと、桜の花びらが目の前を過った。
咄嗟に差し伸べた手をするりと交わして、草の上に落ちたそれに腰を折ろうとした瞬間、背後から焦って名を呼ぶ声がして、振り返る。
「姫様、お早く!」
『ええ、けれど桜が……』
「もうすぐに宴が始まります、姉上様たちはもうあちらでお待ちですよ。」
「お急ぎ下さい」と困った顔で急かされ、仕方無く歩きだす。
「そうそう、観世音菩薩様は何やらご用事ができたとかで、いらっしゃられぬようでございます。どうかお気を落とされませぬよう……」
『そう』
振り返った供の者の顔には、怪訝そうな表情が浮かんでいる。
『それは、残念だわ。』
欲しがっている表情と言葉を察してあげると、その顔に安堵に似たものが広がっていく。
「お忙しい方です故、仕方ないのでしょうね。ですが今日は奥方様、姉上様たちとご家族水入らず、ごゆるりとお楽しみになられませ。」
『ええ……そうね。』
最後にもう一度振り返って見ると、もうどれがさっき自分が取ろうとした桜なのかはわからなかった。
なぜだか、とても惜しいことをしたような気がした。