つれづれと袖のみひぢて春の日のながめはこひのつまにぞ有りける
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『きゃ』
どこかで聞いたことのあるような声に、咄嗟に手を伸ばす。
『も、申し訳ございません……あ。』
上向けられた顔の中で、漆黒の瞳が小さく見開かれた。
「この様な処でまた、何をなさっておいでです。」
思わず吐いてしまったため息混じりの言葉に返ってきたのは、屈託のないふんわりとした笑み。
『二度も助けて頂いて、有難うございます。』
「……また天蓬元帥の処ですか?」
地面に落ちた本を手に取って差し出しながら、どうしたものかと内心で首を捻る。
『ええ、敖潤殿も如何です?』
「いや、私は。」
『わかりました、また次の機会にお誘いする事に致します。』
そんな顔をされれば、頷くしかなくなる。
「……上官として言いにくいことではありますが、あまりお一人で出歩かれるのは。御身に何かあれば、天帝もお心を乱されましょう。」
『では、御一緒いただけますか?』
にこやかに言われ言葉に詰まっていると、鈴を振るような笑い声が空気を揺らした。
『申し訳ございません、つまらぬ我が儘を申しました。』
「……いえ。」
『では、また。』
優雅な挙措で踵を返したその背中に、足を踏み出しかける。
「三――『焔珠です。』
肩越しに振り返った顔に浮かぶ不服そうな表情に、間の抜けた声が出る。
「は?」
『この間も今も、三姫と。私そう呼ばれるのはあまり好きではないのです。』
「……それは、申し訳ございません。」
形の良い眉が微かに上がるのを見て、慌てて口を開く。
「焔…姫様。」
面白がるように細められた両眼を見返して歩を進めると、微かな驚きがその顔に浮かぶ。
「いつかは注意せねばと思っていましたから、良い機会です。」
『では、西南棟まで?』
「ええ、どうせ捲簾大将もいるのでしょう。好都合です。」
『きっととても驚くでしょうね、お二人とも。』
「…行きましょう。」
背に手を触れて、歩みを促す。
数分後に自分が目にする事になるであろう奴らの顔を想像しただけで、久しぶりに笑えそうな気がした。