泡沫
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「………」
呆然と目を瞬いていると、微笑んでいた女が膝を折った。
その動きに合わせて、黒髪に飾られた簪が歌うような音をたてる。
『お上手ですね、木登り。と言いましても降りていらっしゃるところしか見てはいないのですが。』
降り注ぐ木漏れ日を見上げる横顔を見ていると、ふいにその瞳がこちらを向いた。
『こんなに高い楡の木なら、さぞかし登り甲斐があるというものでしょうね。』
「あ「焔珠」
黄金線の入った黒の長衣、西方軍の軍服だ。
その場から動く気のないらしい男が、小さく頭を下げるのが見えた。
眼鏡をかけた、柔和そうな面ざしは何処かで見た記憶があるような気もする。
『これ、どうぞ。』
目の前に広げられた掌の上に載せられているのは、淡い桜色をした砂糖菓子。
「………有…難う。」
慣れない感情を含んだ眼差しに顔を俯けてしまい、後悔した。
『ではまた。』
簪の鳴る音に顔を上げた時には、もう。
遠ざかっていく二つの後姿を見て、踵を返す。
風が運んできた微かな笑い声にひとつ目を閉じてから、歩き出した。