序
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誰だったかは忘れたが、下界の人間が言っていた。
――退屈は人を殺せる
天上には、死さえ存在しない。
脳ミソが常温のまま、溶けてゆく。
「クソつまんねェな。」
目を上げると、特に見たくもない顔が戸の所に立ってこちらを見ていた。
いつもの人を小馬鹿にするような、勝手に楽しそうな笑みを無視して机の上に投げだしていた足を下ろす。
「…って顔に書いてあるぜ金蟬」
「…余計なお世話だ。」
「相変わらず口の利き方を知らん奴だな、天下の観世音菩薩に向かって。」
「自分で言うな。ひやかしに来たんなら帰れよ、仕事が残ってんだ。」
手近にあった数枚の紙を手にとって、縁を揃える。
「ろくに目も通さず、ハンコ押してくだけの書類だろ?」
「ついてこい」と歩きだしたその背中にため息を吐く。
その効果を期待したものでなく、ただ心底から出ただけのものだ。
「恵岸行者が下界で面白いどーぶつを拾ってきたそうだ。」
「動物…?」
思わず眉を寄せて繰り返すと、振り返った顔に一瞬だけ、読み取り難い表情が浮かぶ。
「ああ。」
唇の端を余裕気に引き上げた笑い方は、もう見飽きてそれこそつまらないくらい馴染んだものの筈なのに。
「小さいくせに獰猛な、黄金の眼をした動物さ。」
紺にみえるほどに黒いその瞳がなぜかとても優しく、どこか哀を含んで、こちらを見ていた。
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