第35話 華焔の残夢4
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慌てて駆け寄ってきた悟空が、両腕を広げて背に芙蓉を庇う。
「…お前、ここに何し来たか忘れちまったのか?」
咥えていた煙草を放り、靴底で消し潰しながら無駄にデカい瞳を見返す。
「人質を取る妖怪をぶった押しに来たんだろうが?また騒ぎが起こると、莉炯と耶昂が危ねェんだよ。だから退けって。」
「やだっ」
「やだって…」
声高に叫ばれ、思わず呆気にとられる。
眉間に皺を寄せていた悟空が、くるりと芙蓉に向き直る。
「なぁ、もう人間襲うのは、止めてよ。俺、アンタと戦いたくない。」
「…そうしたら、戻ってきてくれる?」
少し間を置いて、悟空が小さく頭を振る。
「……俺は、伯葉じゃないよ。」
「それでも…それでも構わないからッ」
お願いよ、と頬に引き寄せられた手を優しく引く様に、小さく笑う。
いっちょ前に…
「ごめん」
「メシ、すっげー美味かった!ありがとう。」
それだけ言って踵を返し、三蔵達の待つ方へと駆けていくのを眺めながら、芙蓉の傍らにしゃがみ込む。
振り返りもしない悟空を見つめる瞳に、横から目線を合わせる。
「あの町に、[母親]がいるんだ。」
ようやく向けられたその瞳は、静かだった。
「アンタがこれ以上騒ぎを起こすと、彼女が危険でね。」
「…そんなの、私には関係ない。」
呟いて立ち上がるのに合わせ、膝を伸ばす。
「じゃあ悪いケド、アンタを殺すしかないな。」
「……あの子は伯葉。私の子どもよ……大切な…」
痛みを堪えるような、それでいて慈しむ様な眼差しで言った芙蓉が背を向け、ひとつ、目を閉じる。
「あの子の願いは何でも叶えるわ。襲うなと、そう伯葉が言うのなら、もう町の人間なんて拘りことよ。」
言ったきりゆっくりとした足取りで、去って行く。
彼女もまた、振り返る事を、しなかった。