第35話 華焔の残夢4
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昔から、人の名前を呼ぶという事が稀だった。
覚える名前が極端に少なかったから、自然とそうなったというだけの話。
とはいえ大抵は個人と認識するより先に、[くだらない]や[馬鹿馬鹿しい]などの表示のついた箱に分類されていく。
それら全ては更に、[有象無象]というより大きな箱に入れられてお仕舞。
結局個人情報として記憶されるのは、自分が敬意を払うに値すると認めた相手か、忘れられないような極めつけのバカのどちらか。
その後者の理由から覚えてしまった、ひとつの名。
8年前。
昼夜の別なく、所構わず自分を呼び続けたソイツの名を今、意趣返しのように呼んでいる。
同じように
―― ― ― ―
その煩さに我慢ならなくなり、腰を上げた。
だから
―― ― ― ―
この声が聞こえないとは、言わせない。
――
悟空
**********
「………」
――呼ばれている。
言葉という記号に変換されていなくても、はっきりと感じ取れる程に傲慢な命令。
―― ― ― ―
来い
―― ― ― ―
ここへ来い、と。
何があっても家を出るなと、母に繰り返し、繰り返し言い含められている。
分かってるから、大丈夫だからと、応えたのだ。
でも――
―― ― ― ―
食い入るように見つめた窓外、紅色をした雷光が地上から天空に向けて駆け上がり、霧散する。
幾度も、幾度も。
あれは母が作り出した、紅の刃。
窓枠を掴む手に力が籠り、指先が白く変化する。
呼ぶコエが不意に、途切れた。