第34話 華焔の残夢3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――…寺みてぇ。
朱色に染められた欄干付きの階を上りながらふと、そんな事を思い首を捻る。
寺なんて見た事は、ない。
だってこの森の中にそんなものは存在しないし、自分はここから出た事など一度もないのだ。
「………」
母が両開きの扉を押し開け、道を譲るように脇に立って微笑む。
石畳の床に、何故か躊躇いを覚えながら一歩を踏み出す。
カツンと足元で、聞き慣れない無機質な音。
足元から、冷気が這い上がってくるような感じがした。
「どうしたの、伯葉?」
ここは生まれ育った場所の筈なのに。
何かが違う…
ような気がする。
いつまでも立ち尽くす自分をおかしそうに見つめていた母が、そっと頬に触れる。
「伯葉」
優しく細められる琥珀の瞳に、名を呼ぶたおやかな声音に、渦を巻いていた不審と不安が溶かされていく。
「お腹が空いたって言ってたわね。すぐご飯にしましょう。」
「あ…え、っと……」
「どうしたの?」
「あんまり腹減ったんで…さっき、ちょっと摘まみ食いしたんだけど…あでも!本当にちょっとだけだからっ」
「しょうのない子ね。」
柔らかく頭上に置かれた掌が、大切なモノに触れる様に頭を撫でる。
「…~!」
違う
その手から逃れる様に身を翻し、俯いたまま口を開く。
「奥の部屋に飾ってあった花瓶…落として割ったんだけど……」
なんで
あんなに必死に破片を集めて隠したのに――
「花瓶を?それで怪我は?しなかったの?」
打たれたような心地に顔を上げ、眉根を下げた母の顔に小さく開いた口からでも、言葉が出ない。
「伯葉?」
「…しなかった…しなかったけど…――ッバレるとまずいから、カーテンの陰に破片隠したっ!」