第34話 華焔の残夢3
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「とにかく、悟浄に説明させたのがそもそも間違いだろ。」
このまま会話を続けていると、莉炯の人格形成にいらない影響を及ぼしかねない。
むっと細い眉根を寄せるのから目を背け、コーヒーに手を伸ばす。
『大体の所は分かったけど…本当に悟空だったのよね?』
「少なくとも、俺らはそう思ったぜ。」
「なぁ」と意見を求められた八戒が、頷いて同意を示す。
「芙蓉という名の女性は幻術を使うので、恐らくそれを応用した暗示のようなものをかけられているんだと思います。」
「単純だからな、アイツは。で、その女を母親と呼んでたって?」
「ええ。向こうは悟空の事を、伯葉と呼んでいました。」
「ふん…殺された子供の代わり、というワケか。」
「…三蔵の方も何か分かったみたいですね?」
春炯の方をちらりと見やった八戒の視線が、こちらに向けられる。
「一か月前、この町で妖怪の子どもが殺されている。」
頬を隈取る文様のような痣と、不自然に尖った耳の幼子が、この町に迷い込んだ。
[妖怪]
ただそれだけで畏怖と憎悪の対象となる現状、身を守る為の爪も牙も揃わない子どもは、格好の標的になったのだろう。
ある日突然、肉親や知人を殺された怒りと、いつ何時再び妖怪の襲撃を受けるかと、怯え暮らさねばならなくなった抑圧された心理が、嬲り殺しという結果を生み出した。
「これまで人質を要求された家全てにその加害者がいる。偶然にしては、出来過ぎだな。この事に心当たりはあるか、莉炯?」
「…はっきりとは分かりません。でも、耶昂を生んですぐに姉が妖怪に殺されて…義兄は妖怪を酷く恨んでいました。その事件に加わっていても、おかしくはないです。」
昨夜話していた”私怨”というのが的を得ていたワケだ。
家族を奪われた悲しみと苦しみを味わわせようと、自分の子どもを殺した本人ではなく、その家族を要求していたのだろう。
「…決定、だな。」
大きく息を吐いた悟浄が、顔にかかる長髪をかき上げる。
その手が下ろされる事なく、俯いた額に添えられたままになるのが目に留まり、視界の端で春炯が微かに眉を寄せる。
「復讐して…それで何になるの?そんな事したって、死んだ人が戻ってくるワケでもないのに……っ」
莉炯の声が、抑えきれない想いにわななく。
姉の復讐の為に義兄を失い、彼のしでかした事の報復として今また、唯一残された肉親である耶昂を奪われようとしている。
彼女の言う通り、被害者と加害者の位置が入れ替わっただけで、失ったモノが戻ってくるワケではない。
究極的に生産性のない、それでも、すべき意味は抱えきれない程にあり余る、行為。