第34話 華焔の残夢3
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見開かれた瞳が、大きく揺れる。
『……なん、のこ「1度だけ」
見苦しくすっとぼけようとするのに被せて、口を開く。
「…何年前かは忘れたが」
正確に覚えているものを、どうしてわざわざそんな風に
『………そうだっけ?』
どうして
むざむざ、逃がしてやる必要が?
ふ、と緩んだ表情に感じたこの、微かな安堵の理由も
「…いい度胸だ。」
「呼びっぱなしたぁな」と付け加え、歩みを再開させる。
今もう一度その漆黒と、正面から顔を突き合わせる事を避けた理由も
分からない。
『もしかして、応えてくれた?』
沈黙に何を読み取ったのか、小さな謝罪が風に乗って耳に届く。
次いで
『ありがとう。』
横目に見下ろすと、無遠慮に見上げてくる双眸が柔く解れた。
『まさか応えてもらえるとは、思わなくて。』
言ってる事の意味が分からず、煙草を口から放す。
「……応えるだろうが?呼ばれりゃ」
『…そうね。』
不思議に思いながら前方に視線を戻すと、見覚えのある色の屋根が見えてくる。
長く路上に伸びた二人分の影に向かって眉を顰め、口を開く。
「何がおかしい?」
『……別に、何も。』
「………ふん。」
春炯が、僅かに歩みの速度を上げる。
ほんの少しだけのその変化が、ワケもなく惜しい。
風に触れられて靡く黒髪に知らず、目を、細めた。