第33話 華焔の残夢2
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「………」
15分程間を置いて出ていった春炯を見送った後、これといってやる事もなく。
思い出して目の前にあるカップを手に取って口をつける。
大分冷めたお茶を一口啜った音で静寂を破った途端、斜め前方からキツイ視線が浴びせられた。
「…なンだよ?」
「呑気に茶を啜ってる場合か?」
「春炯に任せときゃいーだろが。っつーかそんな心配なら自分が行けばァ?」
「…ガキの相手が八戒なら、女の相手はお前だろうが。」
「本来」と付け加えられた言葉に滲む苛立ちを流し、煙草を唇で弄ぶ。
「…悟空があんなムキになったのってお前が理由だろ?だったらお前が動くのが筋なんじゃねェの?」
「本来」と真似して付け加えると、先よりも純度を増した怒りが場に満ちる。
「…10秒待ってやる。要点を20字以内にまとめてから口を開け。」
「あのガキ、お前のお仲間だもんな?」
わざとらしく指を折って数えながら視線を合わせ、その顔を覗き込む。
「なあ、江流?」
途端、氷を思わせる鋭い眼光がこちらを見返してくるが、そんなんで引くような細い神経は生憎と持ち合わせていない。
「なのに、あの選択肢はキツくね?」
…ガキを誰かに預けるのが嫌だってンなら、一緒にこの町に残れ。
好きにしろ
三蔵が悟空に示した道はつまるところ、三蔵か耶昂のどちらかを選べといったものだ。
これまでの経験から分かり切ったその答えからすればあまりに無慈悲な言いよう。
悟空への同情を禁じ得ない程に。
「悟空のヤツ、どっち選択すると思ってた?」
「知るか。」
見事なまでの一刀両断に、頭を掻く。
「…お前さァ、もうちょっと悟空に対する自分の影響力っつーの?分かれよな…」
敵意悪意には慣れっこで敏感なのだろうが、その真逆の好意に関しては不慣れなせいか存外鈍いところのあるこの感じもまあ、哀れと言えば哀れ…
と多分一瞬浮かべてしまった同情はしかし、気づかれなかった。
読み取りがたい横顔を、奥の扉に向けていた三蔵が、こちらに顔を戻す。
「話を元に戻せ。今は悟空じゃなく莉炯だろ。…なんだ。」
訝し気に眉を顰めるのに、ひたと真正面から視線を合わせる。
「お前って、結構フェミニストだよな。春炯のコトも大事にしてるみたいだし。」
世間一般から見れば全くそうでもないのだろうが、三蔵が三蔵なりに春炯を気遣っているのは知っている。
女の扱いに慣れた自分からすれば、どれもこれも何てことないコト。
あくまでも、三蔵にしては、という範疇を出ない些細なコトだけれど。
「…俺を怒らせたいのか、貴様。」
「べっつに悪いコトじゃねェだろ?まァ、それはさておき。莉炯は大丈夫だろ。」
「お前の守備範囲外か?」
「まァーね。基本的にあそこまで年下はパスだけど。でも、莉炯の場合は…“母親”だから。」
「…なんなんだその理屈…?」
完全に三蔵の理解の範囲を超えた図式だったらしく、珍しく純粋な疑問が秀麗な面差しに浮かぶ。
「まず女は強い、これが基本。それが“母親”なんつーもんに変化したら天下無敵のさいきょーってモンだぜ?」
「……そういうものか。」
「そ。そーゆーモンなの。」