第16話 Survive
夢小説設定
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「どうしました。」
身を起こすと秋の夜風が涙の名残を宿した瞼を優しく、冷ましていく。
――――。
聴こえない。
呼ばれたのはでも確かに、私だった。
『……知らない誰かと…話をしていました。どこか…覚えのない場所で。たまに視ることがあるんです…でも後なのか先なのか判別が出来なくて…いつも…。』
空っぽの感覚だけが残る、体。
きっとそれはつい先まで満ちていたからなんだと意識とは違うところで、悟る。
「大丈夫ですよ。」
穏やかな微笑を湛えた三蔵様が、手を伸ばす。
つ、と指先が触れた手の甲の下にふいに通い出す、温度。
中てたそこに在る確かなこの温かさは私、自身のそれだ。
「記憶というものは二つ、あるんだそうです。心の記憶と、躯の記憶と。心が忘れてしまった記憶を、躯が覚えている。逆に躯が忘れてしまった記憶を、心は覚えているといったこともあるでしょう。どちらのそれも貴女を形作る、大事なモノです。」
顔を戻して煙管を叩いたその目が再び、こちらを向く。
『…三蔵様…?』
仰ぎ見たその顔の向こうに浮かぶ、夜の明り。
「春炯。」
梳かれた髪が月明かりを受けて仄く、光る。
「どんな時も、貴女が在りたいと望む貴女で良いのですよ。…つまり」
『…つまり…?』
「誰が何を言おうと、貴女は私の可愛い春炯だということです。まだまだ何方に渡す気もありませんよ。」
眉根を寄せた顔がこちらを向き、人差し指を立てる。
「もしもまたその方にお会いしたなら、伝えて下さい。まずは交換日記から始めて頂きますと。」
『…あ、私ももう一度お会いしたいと思います。』
「………」
『とても優しく…笑って下さる方だったような気が、するので……。』
「…それは…」
『?』
「そうですか…それは……」
「灼けますねぇ」と続けるのを聞きながら見上げた夜に揺らぐ、紫煙。
追いかけるように見上げた香りがやがて
――――。
視線の先で溶けるように、消えていった。