第15話 螺旋の暦 5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
たおやかな女性の面影を連れた桜花の姿が、空気に溶けていくように徐々に、朧になっていく。
「悟浄…」
輪郭さえもなくなりかけたその時、くすぐるような声がふと隣に立つ悟浄の名を呼ぶ。
「え」
口を開けて消え行く笑みを見上げていた悟浄に告げられた言葉を風が、さらっていった。
「…あいつ…」
まるで白昼夢でも見ていたような心地が、低く擦れた声に現実に引き戻される。
吹いてくる風の音も…木々の、香りが、一段と鮮やかに、豊かに響き出す。
その力強さにふと、斜陽殿にいた頃の感覚を思い出した。
現世の気配。
「死んでも相変わらずだな。自分の言いたい事だけ言って消えやがって。」
今を生きる祈命で満ちた、世界が拡がって、溶けていく。
「それが命だろ。」
笑う叶を暫く見ていた三蔵が、八戒に向き直る。
「荷物持ってきてあるのか?」
「ええ。誰かさんが勝手な行動をとったので、仕方なく迷惑承知で朝早くに希紗さん達にご挨拶して来ましたから。荷物はジープと共にこの山の麓ですよ。」
笑顔で遠まわしな嫌味を言い切った八戒が、こちらを向いて直前までとは全然違う笑みを浮かべるのが、逆に怖い。
「道中体に気をつけて。また戻る時に近くを通ったなら、是非寄って下さいねと春炯に。伝言を頼まれました。」
『あ、ありがとう…。』
やや無理をして笑うとその顔が少しだけ、不思議そうなそれに変わる。