第15話 螺旋の暦 5
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金山寺にいた頃から既に人は2つ3つの顔を持ち、それを時と場合によって使い分けていると知っていた。
外の世界に一歩足を踏み入れて、更に女という20、30の顔を持つ生き物にも出会った。
だが命はその、どちらでもなかった。
裏も表すらもなく――唯一絶対の、ただひとつの顔しか持たない人種。
自分との会話に噛み合う箇所などある筈もなく、のれんに腕押し、ぬかにクギなどのことわざの意味をまざまざと思い知った事も、思い出す。
叶は、その純粋さを気に入っていたのだろう。
記憶の中にある叶の1番穏やかな表情は確かに、命に、向いていたから。
今なら、確信を持って断定出来る。
あの女性像は、命だ。
彼女が死んだ後、叶が彫ったものだろう。
それ程想っていた相手が死んだのだから、恨まれるのは当然だと思う。
けれど今日、言葉を交わした時に伝わってきたのは…
――殺せるか?
自問するが、明確な答えが出ない。
純粋な憎しみだけでない感情が一体、何なのか。
――殺せるか?
目を閉じて、ゆっくりと息を吐き出す。
「三蔵」
寝言でもなければ、問いかけでもない。
こちらが起きている事を知っての、呼びかけだった。