第12話 螺旋の暦 2
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大階段の扉の前で眼下にその姿が見えるのを朝からずっと、待っていた。
儀式用の大仰な巫女装束を身につけたまま面に出てきた私に、皆が驚いて遠巻きに見ていたのをぼんやりと、思い出す。
とうとう三仏神からの使者に声をかけられ、観念して奥殿へと戻ろうとした時だった。
『……聖典・魔典2つの経文の保持者を務めていたあの方が妖怪の、それも夜盗ごときに太刀打ち出来なかったなんて、今でも信じられない。何かの間違いなんじゃないかって…長いこと、思ってた。』
耳近くで揺れる髪紐にそっと手を触れさせ、少し乱れた息を整える。
『死の直前に”三蔵”を受け継いだあの人が、金山寺を出て諸国を廻っているようだと人づてに、聞いて……最高僧の位を持っているとはいえまだ…12歳よ?たった…独りで……』
何が出来たとは、思わない。
閉じた目の裏に浮かぶ、謁見の間で片膝をついた、横顔。
人間が、自分とそう歳の変わらない子どもがあんな眼をしている事が信じられなかった。
恐ろしかった。
「…春炯…」
見上げると、青みを帯びる程に透き通ったグリーンの瞳が痛ましげにこちらを見ていた。
『…今じゃもう、あんなに大きくなって見る影もないけどね』と視線を投げ、一定の速度で前を歩き続ける背中を見やる。
『だからお世話になった人がいるのなら、お礼を言いたいなと思って。』
重たくなってしまった空気を吹き飛ばすようにそう言うと、八戒がややあって「そうですね」と柔らかく笑う。
「でも、僕は今、貴女にもお礼を言いたくなりましたよ。ありがとうございます、春炯。」
『…え…。』
面食らって見つめるとその笑みが、目に見えて深くなる。
なんとなく恥ずかしくなって足を、速めた。