第12話 螺旋の暦 2
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記憶というのは不安定で、不確かでそして、不可思議なものだ。
2、3日前の事がまるで思い出せなかったり、逆に何年も前の事を鮮明に覚えていたり、昨日まで忘れていた事をちょっとしたきっかけで思い出す事もある。
小銃の残りの銃弾を数えていた時に不意に脳裏を過ぎった、それまでは思い出しもしなかった男の顔。
年代によって大きく波のある、自分の記憶。
光明三蔵を目の前でなす術も無く殺され仇討ちと、奪われた聖典経文を取り戻す為に金山寺を下りてから。
そこから数年の記憶は自分でもやや笑える程に、曖昧だ。
暫くは足を頼りに一人、妖怪の夜盗群を探していた。
だが何の手掛かりも無く無闇に動き回るにはこの国は広すぎ、時間だけがただ無意味に、流れていった。
このままでは埒があかないと焦燥に駆られ、それでもまだ諦めきれずかと言ってどうすれば良いかもわからずにいた。
歩調を崩す事なく進めていた足の下で、パキッと小枝が乾いた音を立てて折れる。
草履越しに感じた僅かな振動に目を落とし再び、歩き出す。
過去自分は、この道を通った事がある。
この景色を、見た事がある。
それは事実なのだが、記憶には残っていない。
覚えているのは、このまま登っていった場所に建っている古ぼけた家と、そこに住んでいた風変わりな男だけ――ああ。
そうだ、とここへきてようやく、男の名を思い出す。
叶、だ。
意識せずとも前進を止めない身体は放り、記憶を手繰る事に意識を傾けていく。