第11話 螺旋の暦 1
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「ありがとうございます」と嬉しそうに笑ってくれるのに、頬を緩める。
先程聞いた話では、この宿は彼女と両親の3人で経営しているのだという。
宿泊客の身の回りの世話を中心に働いているのだと、教えてくれた。
「希紗さん…でしたよね?食事、わざわざ部屋まで運んでもらっちゃって、すみませんでした。」
「いいえ、そんな。見ての通り小さな宿で食堂がないだけですから。この街を訪れる人は限られているんで、大きくしても無駄なんですよ。春炯さんにもお手伝いして頂いてしまって…返ってこちらが申し訳なかったです。ありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げるのに首を振り、口を開く。
『もう時間も遅いのに、こんなにたくさん用意して頂いてありがとう。』
地図にも載らないような街であれば十分に頷ける言に、ちらりと端の席でお茶を啜っている三蔵を見る。
「それじゃあ、失礼しますね。何かあったら私も両親も下にいるのでいつでも声をかけて下さい。」
一つにまとめて高く結い上げた長い髪を後に、希紗が部屋を出て行く。
徐々にその足音が遠ざかっていくのを聞きながら、隣の八戒がじっと悟浄の顔を窺っているのに気がついた。
「なーんか用か、八戒。」
「希紗さん、美人でしたね。」
確かに。
「そーだな」と煙草を取り出して火を点けた悟浄が、気の無い風に窓外へと視線を投げる。
「年齢も20そこそこでしょうし。」
「そーだな。」
八戒と目を合わせないようにして灰皿を引き寄せるその様が、まるで大きな子どもみたいでとても、おかしい。