欲を食らわば墓まで
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朝練を終えて教室に入ると、いつも居る苗字の姿が無かった。自分の机に鞄を置き、教科書をしまい込む。全ての教科書を入れ終わった所で、クラスメイトの男子の高橋が「あ!」と大きな声を上げる。
何だ?気になって顔を上げると、教室の入り口に苗字が居た。もっと正確に伝えるならば、これでもかという程の猫背で、ゾンビのように歩いている。長い黒髪も相まって、ホラー映画に出てきそうだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
先程大きな声を上げた高橋が、謎の挨拶を苗字にした。途端に彼の周りに居る、取り巻きがゲラゲラと笑い出す。なんだアレ。全く意味が分かんねえ。遠目に訝しんでいると、苗字は猫背を正して凛と立ち、全く目の笑っていない笑顔を貼り付ける。
「ただいま帰りました」
「――で、苗字にお願いがあるんだけど――お!そんなんでいいなら――」
クソ。ここからじゃ、なんの話をしてるのか分かんねえ。けど高橋の声はデカいから、耳を澄ませば聞こえるはず。更に集中して、聞き耳を立てる。
「まさかメイド喫茶でバイトしてるとは思わなかったわ」
は?メイド喫茶?誰が?え、アイツが?
メイド服を着た彼女が頭に過ったが、なんとも言えない気持ちになって頭を左右に振る。一人悶々としていると、話を終えた苗字がこちらに向かってきた。この世の全てを見下すような、冷えきった瞳と目が合うも、すぐに逸らされてしまう。いつもは挨拶をすっ飛ばして、話してくるというのに。どうするべきか悩んだ末、話しかけることにした。
「苗字、おはよう」
「おはよう」
サッチェルバッグを机に置く彼女は、こちらを向くことなく返事をする。
「あのさ。苗字の言ってたカフェって、メイド喫茶の事だったのか?」
どうしても気になったオレは、ストレートに疑問をぶつけた。こちらを向いた苗字は、
「阿部って本当に愚直だよね。……まあ、今更隠しても仕方が無いから教えてあげるよ。確かに私のバイト先はメイド喫茶。それもメイドとして働いてるの。存分に笑えば良いよ」
と捲し立て、自嘲気味に笑う。どうやらメイドをしていることに、負い目を感じているらしい。だから前にバイトの話をした時、様子が変だったのか。合点がいって、腑に落ちた。
「笑うわけねえだろ。大変なのにスゲーなって尊敬する。それをお前は何で卑下すんだよ。胸を張ってれば良いじゃねえか」
思ったことをそのまま口にすると、彼女は目をまん丸くして驚く。
「こんな私がメイド服を着て、愛想を振りまいてるんだよ?想像しただけで滑稽でしょう?」
「滑稽な訳あるか。お前は自分と、仕事に誇りを持てよ」
真剣な眼差しを苗字に向ける。すると彼女は、暫く考えた後、ふっと表情を和らげた。
「そうだね。仕事に負い目を感じるなんて、同僚や顧客にも失礼な行為だ。阿部の言う通りだよ。気づかせてくれて、ありがとう」
目を細めて嫋やかに笑う苗字は、今まで見た中で一番綺麗だった。
何だ?気になって顔を上げると、教室の入り口に苗字が居た。もっと正確に伝えるならば、これでもかという程の猫背で、ゾンビのように歩いている。長い黒髪も相まって、ホラー映画に出てきそうだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
先程大きな声を上げた高橋が、謎の挨拶を苗字にした。途端に彼の周りに居る、取り巻きがゲラゲラと笑い出す。なんだアレ。全く意味が分かんねえ。遠目に訝しんでいると、苗字は猫背を正して凛と立ち、全く目の笑っていない笑顔を貼り付ける。
「ただいま帰りました」
「――で、苗字にお願いがあるんだけど――お!そんなんでいいなら――」
クソ。ここからじゃ、なんの話をしてるのか分かんねえ。けど高橋の声はデカいから、耳を澄ませば聞こえるはず。更に集中して、聞き耳を立てる。
「まさかメイド喫茶でバイトしてるとは思わなかったわ」
は?メイド喫茶?誰が?え、アイツが?
メイド服を着た彼女が頭に過ったが、なんとも言えない気持ちになって頭を左右に振る。一人悶々としていると、話を終えた苗字がこちらに向かってきた。この世の全てを見下すような、冷えきった瞳と目が合うも、すぐに逸らされてしまう。いつもは挨拶をすっ飛ばして、話してくるというのに。どうするべきか悩んだ末、話しかけることにした。
「苗字、おはよう」
「おはよう」
サッチェルバッグを机に置く彼女は、こちらを向くことなく返事をする。
「あのさ。苗字の言ってたカフェって、メイド喫茶の事だったのか?」
どうしても気になったオレは、ストレートに疑問をぶつけた。こちらを向いた苗字は、
「阿部って本当に愚直だよね。……まあ、今更隠しても仕方が無いから教えてあげるよ。確かに私のバイト先はメイド喫茶。それもメイドとして働いてるの。存分に笑えば良いよ」
と捲し立て、自嘲気味に笑う。どうやらメイドをしていることに、負い目を感じているらしい。だから前にバイトの話をした時、様子が変だったのか。合点がいって、腑に落ちた。
「笑うわけねえだろ。大変なのにスゲーなって尊敬する。それをお前は何で卑下すんだよ。胸を張ってれば良いじゃねえか」
思ったことをそのまま口にすると、彼女は目をまん丸くして驚く。
「こんな私がメイド服を着て、愛想を振りまいてるんだよ?想像しただけで滑稽でしょう?」
「滑稽な訳あるか。お前は自分と、仕事に誇りを持てよ」
真剣な眼差しを苗字に向ける。すると彼女は、暫く考えた後、ふっと表情を和らげた。
「そうだね。仕事に負い目を感じるなんて、同僚や顧客にも失礼な行為だ。阿部の言う通りだよ。気づかせてくれて、ありがとう」
目を細めて嫋やかに笑う苗字は、今まで見た中で一番綺麗だった。