欲を食らわば墓まで
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文化祭まで一カ月を切った。
クラスで文化祭の準備が着々と進められている中、オレ達野球部は手伝いに参加することなく、毎日のように練習に励んでいた。正直なところ行事に対して、やる気が出ない。野球部という大義名分を振りかざして、堂々とサボっている訳だ。
「私も野球部に入ろうかな」
帰りのホームルームが終わった所で、苗字がぼそりと呟く。オレはエナメルバッグに、教科書を詰め込みながら「なんで?」と、苗字に訊ねる。
「単純な興味が一番だけど、今は文化祭をサボりたいのが大きいかな」
「野球に興味あんの?」
後者の不純な動機は置いといて、こいつがマネージャーになるというのも、悪くないだろう。データや理論なんかを、上手く活用してくれそうだ。
苗字は顎に手を当てて、少し考えてから返事をした。
「阿部に興味があるの」
「は!?」
思わず大声を出してしまう。今の話の流れで、なんでオレ?興味があるって、どういう意味で?苗字のストレートかつ、飛躍した言葉に困惑する。
「阿部は思ってることを、そのまま顔に出すよね。そういうところが魅力的だよ。やはり魅力の根源は人間味にある」
「……はあ」
よく分からないが、褒められているらしい。こそばゆいが悪い気はしないので、喋らせておけば良いだろう。時計を一瞥すると、部活の時間まで、多少の余裕があった。
「それで真面目な話、野球部に入りたいのか?」
「残念だけど、入部はしないよ。バイトがあるから入れない、と言った方が良いかな」
「そういえばお前、何のバイトしてるんだ?」
質問すると、彼女は固まった。忙しなく動かしていた口は引き攣り、視線は明後日の方を向いている。
「聞かれたら不味いバイトでもしてんのか?」
「いや、カフェの接客だよ」
オレの目を真っ直ぐに見て、いつもの調子で答えた。嘘を吐いているようには思えないが、さっきの反応が気に掛る。
「カフェの接客って、どんなことすんの?」
「うん?席に案内したり、商品を提供したり、レジに入ったりだよ」
「へえ。大変だな」
探りを入れてみたが、返ってきた答えは、普通の仕事内容だ。どうやらオレの思い過ごしだったらしい。
「慣れるまでは大変だったけれど、今となっては流れ作業だよ。それよりも野球部の方が大変じゃないかな?遅くまで練習してるって花井から聞いたよ」
「は?花井と仲良いの?」
「え?特別良い訳ではないけど。クラスメイトなんだから、話くらいするでしょう?」
「あ、ああ。そうだな」
こいつの言う通りだ。それなのにオレは、花井と苗字が仲良くしている所を想像して、もやっとしてしまった。この感覚は、一体何なんだ。自問自答をしていると「変な阿部」という苗字の呟きが耳に入ってくる。オレはその声を無視して、エナメルバッグを肩に掛けた。
クラスで文化祭の準備が着々と進められている中、オレ達野球部は手伝いに参加することなく、毎日のように練習に励んでいた。正直なところ行事に対して、やる気が出ない。野球部という大義名分を振りかざして、堂々とサボっている訳だ。
「私も野球部に入ろうかな」
帰りのホームルームが終わった所で、苗字がぼそりと呟く。オレはエナメルバッグに、教科書を詰め込みながら「なんで?」と、苗字に訊ねる。
「単純な興味が一番だけど、今は文化祭をサボりたいのが大きいかな」
「野球に興味あんの?」
後者の不純な動機は置いといて、こいつがマネージャーになるというのも、悪くないだろう。データや理論なんかを、上手く活用してくれそうだ。
苗字は顎に手を当てて、少し考えてから返事をした。
「阿部に興味があるの」
「は!?」
思わず大声を出してしまう。今の話の流れで、なんでオレ?興味があるって、どういう意味で?苗字のストレートかつ、飛躍した言葉に困惑する。
「阿部は思ってることを、そのまま顔に出すよね。そういうところが魅力的だよ。やはり魅力の根源は人間味にある」
「……はあ」
よく分からないが、褒められているらしい。こそばゆいが悪い気はしないので、喋らせておけば良いだろう。時計を一瞥すると、部活の時間まで、多少の余裕があった。
「それで真面目な話、野球部に入りたいのか?」
「残念だけど、入部はしないよ。バイトがあるから入れない、と言った方が良いかな」
「そういえばお前、何のバイトしてるんだ?」
質問すると、彼女は固まった。忙しなく動かしていた口は引き攣り、視線は明後日の方を向いている。
「聞かれたら不味いバイトでもしてんのか?」
「いや、カフェの接客だよ」
オレの目を真っ直ぐに見て、いつもの調子で答えた。嘘を吐いているようには思えないが、さっきの反応が気に掛る。
「カフェの接客って、どんなことすんの?」
「うん?席に案内したり、商品を提供したり、レジに入ったりだよ」
「へえ。大変だな」
探りを入れてみたが、返ってきた答えは、普通の仕事内容だ。どうやらオレの思い過ごしだったらしい。
「慣れるまでは大変だったけれど、今となっては流れ作業だよ。それよりも野球部の方が大変じゃないかな?遅くまで練習してるって花井から聞いたよ」
「は?花井と仲良いの?」
「え?特別良い訳ではないけど。クラスメイトなんだから、話くらいするでしょう?」
「あ、ああ。そうだな」
こいつの言う通りだ。それなのにオレは、花井と苗字が仲良くしている所を想像して、もやっとしてしまった。この感覚は、一体何なんだ。自問自答をしていると「変な阿部」という苗字の呟きが耳に入ってくる。オレはその声を無視して、エナメルバッグを肩に掛けた。