欲を食らわば墓まで
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四時間目の授業が終わり、昼メシの時間になった。
エナメルバッグから弁当を取り出していると、隣の席の苗字が「ちょっと良いかな?」と青い顔をして、おずおずと話しかけて来る。どうやら只事ではないらしい。
「どうしたんだ?」
「二百円貸して欲しいんだ」
目の前の彼女は申し訳無さそうに、顔の前で手を合わせて、お願いのポーズをして来た。こんなにしおらしい姿を見るのは、初めてかも知れない。
「別に良いけど、何があったんだ?」
「いつも学食なんだけど、財布を忘れてしまったの」
こいつが忘れ物をするなんて、珍しい事もあるもんだ。今日は雪でも降るんじゃないか、なんてことを思いながら、鞄の中から財布を取り出す。
「ほらよ、二百円」
「ありがとう」
二百円を受け取った苗字は、深々と頭を下げて来た。たかだか二百円で、大袈裟だなと思う。
「つーか、それだけで足りるか?」
「大丈夫だよ。学食の麺類はどれも二百円で、なかなか美味しいんだよ。特に焼きうどん。私のような一人暮らしの貧乏人にとっては、最高のご馳走だよ」
「は?誰が一人暮らしで、貧乏人だって?」
「私がだけど」
苗字はきょとんと目を丸くして、自身の顔を指差した。
「マジか」
「マジだよ」
仕草からしてお嬢様だと、勝手に勘違いしていた。それにしても、浜田の時にも思った事だが、高校生で一人暮らしって、絶対に大変だよな。こいつもバイトとかしてんのかな。あんまり想像できないけど。内心でそんな事を考えていると、彼女は首を傾げる。
「どうかした?」
「バイトとかしてんの?」
いや、唐突すぎるだろ。そう思ったのも束の間で、苗字だって突拍子も無い事を言うんだから、良いだろうという考えに辿り着く。当の本人であるこいつも、突然の質問に驚く様子はない。
「そうだよ。よく分かったね」
「似たような境遇の奴が、知り合いに居るからな」
「もしかして浜田のこと?」
「え。知ってんのか?」
まさかの反応に驚いていると、苗字が口を開いた。
「野球部の援団に誘われて応援しに行ったから、向こうも顏くらいは覚えてるんじゃないかな」
深い親交がある訳ではないらしい。ホッと胸を撫で下ろす。
……?こいつが浜田と仲が良くても、オレには関係の無い話だろ。自分の感情に違和感を覚えるが、そんなことはどうでも良いと結論付けた。
「つーか、お前も応援に来てたんだな」
「喉が枯れるまで応援したんだけど、阿部には届かなかったみたいだね」
意地の悪い笑顔を浮かべる彼女に、苦虫を噛み潰したような表情を返す。しかし折角の応援を、無碍にするというのも、良くないだろう。
「応援ありがとな」
素直に感謝を伝えたは良いものの、気恥ずかしさが襲ってきた。頭を掻いているオレを見た苗字は、いつものように口を手で隠しながら、くすくすと控えめな笑いを溢す。
「こちらこそ感動を有難う。それじゃあ私は食堂に行ってくるよ。二百円とこの恩は、必ず返すからね」
苗字は小さく微笑んで、ひらひらと手を振りながら、教室を後にした。
エナメルバッグから弁当を取り出していると、隣の席の苗字が「ちょっと良いかな?」と青い顔をして、おずおずと話しかけて来る。どうやら只事ではないらしい。
「どうしたんだ?」
「二百円貸して欲しいんだ」
目の前の彼女は申し訳無さそうに、顔の前で手を合わせて、お願いのポーズをして来た。こんなにしおらしい姿を見るのは、初めてかも知れない。
「別に良いけど、何があったんだ?」
「いつも学食なんだけど、財布を忘れてしまったの」
こいつが忘れ物をするなんて、珍しい事もあるもんだ。今日は雪でも降るんじゃないか、なんてことを思いながら、鞄の中から財布を取り出す。
「ほらよ、二百円」
「ありがとう」
二百円を受け取った苗字は、深々と頭を下げて来た。たかだか二百円で、大袈裟だなと思う。
「つーか、それだけで足りるか?」
「大丈夫だよ。学食の麺類はどれも二百円で、なかなか美味しいんだよ。特に焼きうどん。私のような一人暮らしの貧乏人にとっては、最高のご馳走だよ」
「は?誰が一人暮らしで、貧乏人だって?」
「私がだけど」
苗字はきょとんと目を丸くして、自身の顔を指差した。
「マジか」
「マジだよ」
仕草からしてお嬢様だと、勝手に勘違いしていた。それにしても、浜田の時にも思った事だが、高校生で一人暮らしって、絶対に大変だよな。こいつもバイトとかしてんのかな。あんまり想像できないけど。内心でそんな事を考えていると、彼女は首を傾げる。
「どうかした?」
「バイトとかしてんの?」
いや、唐突すぎるだろ。そう思ったのも束の間で、苗字だって突拍子も無い事を言うんだから、良いだろうという考えに辿り着く。当の本人であるこいつも、突然の質問に驚く様子はない。
「そうだよ。よく分かったね」
「似たような境遇の奴が、知り合いに居るからな」
「もしかして浜田のこと?」
「え。知ってんのか?」
まさかの反応に驚いていると、苗字が口を開いた。
「野球部の援団に誘われて応援しに行ったから、向こうも顏くらいは覚えてるんじゃないかな」
深い親交がある訳ではないらしい。ホッと胸を撫で下ろす。
……?こいつが浜田と仲が良くても、オレには関係の無い話だろ。自分の感情に違和感を覚えるが、そんなことはどうでも良いと結論付けた。
「つーか、お前も応援に来てたんだな」
「喉が枯れるまで応援したんだけど、阿部には届かなかったみたいだね」
意地の悪い笑顔を浮かべる彼女に、苦虫を噛み潰したような表情を返す。しかし折角の応援を、無碍にするというのも、良くないだろう。
「応援ありがとな」
素直に感謝を伝えたは良いものの、気恥ずかしさが襲ってきた。頭を掻いているオレを見た苗字は、いつものように口を手で隠しながら、くすくすと控えめな笑いを溢す。
「こちらこそ感動を有難う。それじゃあ私は食堂に行ってくるよ。二百円とこの恩は、必ず返すからね」
苗字は小さく微笑んで、ひらひらと手を振りながら、教室を後にした。