欲を食らわば墓まで
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「それにしても、何でまた急にそんな話をしたんだ?」
動揺を隠すために話題を変えると、苗字は何かを考えるように俯いて、虚空をぼんやりと見つめた。難しい質問をしたつもりは無いが、何か引っかかることでもあるのだろうか。
「苗字」
痺れを切らして呼びかけると、我に返った彼女が顔を上げる。
「ああ、ごめん。この考えに至ったのは、小学三年生の頃だったんだけど、今まで誰にも話したことが無かったから、阿部に聞いて貰おうと思ったんだよ」
やはりと言うべきか、最初に質問してきた時から、オレに自分の考えを聞かせる気だったらしい。それは別に良いとして、一つだけ引っかかることがあった。
「お前って子供の頃から、人間の本質について考えてたのか?」
そんなことを考える小学三年生は見たことが無い。なんなら高校生でも珍しいだろう。驚くオレを他所に、彼女はあっけらかんとした様子で、
「そうだけど。阿部は考えたことが無いの?」
と質問してきた。馬鹿にしている訳では無く、ただ単純な疑問を投げかけてみた、というような感じだ。こういう所で、地頭の差というか、頭の出来の違いを感じる。
実際こいつは学力特待生として入学したらしく、入学式でも新入生代表の挨拶をしていた。思えばあの時も「人生は無意味で無価値である」という、インパクトのある挨拶をかましていたのだが、この話はとりあえず置いておこう。
とにかくオレは断じて馬鹿じゃ無い。苗字がイレギュラーな存在なんだ。そう自分に言い聞かせながら、彼女の質問に答える。
「考えたことも無いのが普通だろ」
「それなら君は普段どういう事を考えてるの?」
「野球のことだな」
「阿部は根っからのスポーツマンだね」
苗字は口元を手で隠しながら、くすくすと小さく笑った。いちいち仕草が上品なのに、毎回不作法に話しかけてくるのは、何故なのだろう。
こいつには不思議なことが沢山ある。夏休み中に用事も無いのに学校へ赴いていたり、気まぐれにグラウンドの草むしりを手伝ったり。理由を聞くと「家に居ても暇だからね」と言うばかりで、何を考えているのか分からない。
「オレは苗字の考えてることが知りてえよ」
切実な思いを口に出すと、彼女は困ったように眉を下げた。
「少し眠たいとか、お腹が空いたとか、つまらないことを考えているよ」
「……お前がオレと変わらなくて安心したわ」
難しいことばかり考えているものだと決めつけていたが、案外そうでもないらしい。ほんの少し親近感を覚えた。とはいえ人間の根源的な部分について考えているのは、やはり普通ではないのだろう。
そういう所も含めて、苗字のことを理解したいと思った。
動揺を隠すために話題を変えると、苗字は何かを考えるように俯いて、虚空をぼんやりと見つめた。難しい質問をしたつもりは無いが、何か引っかかることでもあるのだろうか。
「苗字」
痺れを切らして呼びかけると、我に返った彼女が顔を上げる。
「ああ、ごめん。この考えに至ったのは、小学三年生の頃だったんだけど、今まで誰にも話したことが無かったから、阿部に聞いて貰おうと思ったんだよ」
やはりと言うべきか、最初に質問してきた時から、オレに自分の考えを聞かせる気だったらしい。それは別に良いとして、一つだけ引っかかることがあった。
「お前って子供の頃から、人間の本質について考えてたのか?」
そんなことを考える小学三年生は見たことが無い。なんなら高校生でも珍しいだろう。驚くオレを他所に、彼女はあっけらかんとした様子で、
「そうだけど。阿部は考えたことが無いの?」
と質問してきた。馬鹿にしている訳では無く、ただ単純な疑問を投げかけてみた、というような感じだ。こういう所で、地頭の差というか、頭の出来の違いを感じる。
実際こいつは学力特待生として入学したらしく、入学式でも新入生代表の挨拶をしていた。思えばあの時も「人生は無意味で無価値である」という、インパクトのある挨拶をかましていたのだが、この話はとりあえず置いておこう。
とにかくオレは断じて馬鹿じゃ無い。苗字がイレギュラーな存在なんだ。そう自分に言い聞かせながら、彼女の質問に答える。
「考えたことも無いのが普通だろ」
「それなら君は普段どういう事を考えてるの?」
「野球のことだな」
「阿部は根っからのスポーツマンだね」
苗字は口元を手で隠しながら、くすくすと小さく笑った。いちいち仕草が上品なのに、毎回不作法に話しかけてくるのは、何故なのだろう。
こいつには不思議なことが沢山ある。夏休み中に用事も無いのに学校へ赴いていたり、気まぐれにグラウンドの草むしりを手伝ったり。理由を聞くと「家に居ても暇だからね」と言うばかりで、何を考えているのか分からない。
「オレは苗字の考えてることが知りてえよ」
切実な思いを口に出すと、彼女は困ったように眉を下げた。
「少し眠たいとか、お腹が空いたとか、つまらないことを考えているよ」
「……お前がオレと変わらなくて安心したわ」
難しいことばかり考えているものだと決めつけていたが、案外そうでもないらしい。ほんの少し親近感を覚えた。とはいえ人間の根源的な部分について考えているのは、やはり普通ではないのだろう。
そういう所も含めて、苗字のことを理解したいと思った。