欲を食らわば墓まで
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あれから何事もなく、鎌倉観光を終えた。由比ヶ浜での一件で、オレと名前の距離は近づいたと思う。あの時のあいつはオレを信頼して、自分の家庭事情を話してくれたんだから、まず間違いなく嫌われてはいないだろう。それなのに。
「鎌倉遠足から一カ月は経ったけど、苗字さんとは進展したの?」
部活終わりに部室で着替えていると、水谷が唐突に質問してきた。
「え?なに、何の話?」
オレの隣で着替えていた栄口が、興味津々に食いついてくる。ここでその話題を出すとこうなるのは目に見えてるだろ。水谷を恨めしく睨むと、彼は慌てふためく。
「ごめんって」
「まあ、隠すような事でも無いから良いけど」
オレは大きな溜息を吐いた。それから頭に疑問符を浮かべてオレ達のやり取りを見ている栄口に「好きな奴の話」と教える。
「え!?」
栄口は目を丸くして、大きな声を出した。それにつられて、他の部員達もオレ達に注目する。これは確実に聞き耳を立てられるだろう。
「す、好きな奴って、阿部の?」
「ああ」
「う、うそ……相手は?オレの知ってる子?」
栄口が信じられないものを見るような目を向けてくる。前に恋愛話をした時に、初恋もまだだと話したので、この反応も無理はない。
「苗字名前って分かるか?」
あいつはちょっとした有名人なので、知っているかもしれない。そう思っていると案の定、
「ちょっと前に作文コンクールで入賞して表彰されてた子だよね?クールでキレーな感じの」
と返事をしてきた。
「そう。あいつのことが好きなんだ」
「阿部ってああいう子が好きなのかぁ……」
栄口は顏を赤くしてしみじみと頷いている。こいつ、この手の話が好きだよなあ。
「それで、その苗字さんとはどうなの?」
再び水谷が質問してきた。
「それが最近避けられてるんだよ。オレが何かした訳でもないのにさ。今までの様子からして、嫌われてる訳じゃねえ、と思うんだけど……」
自信の無さから声が知りずぼみしていく。それを聞いた栄口は、俯きがち考え込んだ後、何かを閃いたのか顔を上げた。
「気になるならさ、直接聞いてみても良いんじゃない?」
「それもそうだな。このままじゃ埒が明かないし」
彼の提案に頷き、着替えを済ませる。それからスマホを取り出して、トークアプリで名前に〝最近オレの事避けてねえか?〟と話しかけることにした。入力してからそれを送った瞬間に既読が付く。その速さに驚きながらもエナメルバッグを肩に掛けて、着替え終わった部員達と部室を出る。
駐輪場に向かって歩いていると、ポケットの中のスマホが振動した。それを取り出して画面を確認すると、名前からのメッセージが届いていた。
〝ごめん もう友達辞めよう〟
その文字を見たオレの頭は真っ白になった。
「鎌倉遠足から一カ月は経ったけど、苗字さんとは進展したの?」
部活終わりに部室で着替えていると、水谷が唐突に質問してきた。
「え?なに、何の話?」
オレの隣で着替えていた栄口が、興味津々に食いついてくる。ここでその話題を出すとこうなるのは目に見えてるだろ。水谷を恨めしく睨むと、彼は慌てふためく。
「ごめんって」
「まあ、隠すような事でも無いから良いけど」
オレは大きな溜息を吐いた。それから頭に疑問符を浮かべてオレ達のやり取りを見ている栄口に「好きな奴の話」と教える。
「え!?」
栄口は目を丸くして、大きな声を出した。それにつられて、他の部員達もオレ達に注目する。これは確実に聞き耳を立てられるだろう。
「す、好きな奴って、阿部の?」
「ああ」
「う、うそ……相手は?オレの知ってる子?」
栄口が信じられないものを見るような目を向けてくる。前に恋愛話をした時に、初恋もまだだと話したので、この反応も無理はない。
「苗字名前って分かるか?」
あいつはちょっとした有名人なので、知っているかもしれない。そう思っていると案の定、
「ちょっと前に作文コンクールで入賞して表彰されてた子だよね?クールでキレーな感じの」
と返事をしてきた。
「そう。あいつのことが好きなんだ」
「阿部ってああいう子が好きなのかぁ……」
栄口は顏を赤くしてしみじみと頷いている。こいつ、この手の話が好きだよなあ。
「それで、その苗字さんとはどうなの?」
再び水谷が質問してきた。
「それが最近避けられてるんだよ。オレが何かした訳でもないのにさ。今までの様子からして、嫌われてる訳じゃねえ、と思うんだけど……」
自信の無さから声が知りずぼみしていく。それを聞いた栄口は、俯きがち考え込んだ後、何かを閃いたのか顔を上げた。
「気になるならさ、直接聞いてみても良いんじゃない?」
「それもそうだな。このままじゃ埒が明かないし」
彼の提案に頷き、着替えを済ませる。それからスマホを取り出して、トークアプリで名前に〝最近オレの事避けてねえか?〟と話しかけることにした。入力してからそれを送った瞬間に既読が付く。その速さに驚きながらもエナメルバッグを肩に掛けて、着替え終わった部員達と部室を出る。
駐輪場に向かって歩いていると、ポケットの中のスマホが振動した。それを取り出して画面を確認すると、名前からのメッセージが届いていた。
〝ごめん もう友達辞めよう〟
その文字を見たオレの頭は真っ白になった。