欲を食らわば墓まで
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「バスの中でも話したけれど、私には両親と姉が居るんだ。仕事人間の父と、大うつ病性障害の母と、自閉スペクトラム症の姉っていう、愛すべき家族がね」
彼女はにっこりと笑いながら、地面に父と母と姉という文字を書き始める。
「母はいわゆるうつ病で、一日の殆どを寝て過ごしているの。うつ病は不眠症を患う人が多いけれど、母の場合は過眠症でね。料理や洗濯に掃除といった、家事をすることも難しくて。だから六歳の頃から、私が代わりに家事をしていたんだ」
名前は地面の母の字の下に、うつ病という文字を書き足した。幼いころから当たり前に家事をこなしていたから、高校生という若さで一人暮らしができるんだろうか。静かに言葉を聞いていると、再び彼女は口を開き出す。
「姉は三歳上で自閉スペクトラム症、発達障害って言うと分かりやすいかな。だからとは限らないんだけど、かなり攻撃的で暴力と暴言が絶えなくて。毎日のように殴られたり蹴られたりして、暴言も浴びせられていたんだ。そんな日々を送る中で悟ったよ。人間の本質は欲にあるんだと。だから姉は私に酷いことをするんだって、思ったの」
今のオレはどんな顏をしているんだろうか。明るい声色で微笑む名前は、見ているだけで痛ましい。オレの目にじんわりと涙が滲んでいく中、彼女は慌てた様子でこちらの顔色を伺う。
「ごめん、あまりにも重い話だったよね。……気持ち悪い、よね」
彼女は顔を曇らせて、申し訳なさそうに呟いた。確かにこいつの家庭事情は、オレが想像していたよりも重い。今の話だってかいつまんだものだから、もっと言えないような事や酷い事もあっただろう。
だけど名前の人生を気持ち悪いなんて思わない。寧ろ今まで言えなかった苦しみを、オレに打ち明けてくれたことが嬉しかった。
「気持ち悪くなんかねえよ。お前がこれまでの人生、ずっと一人で抱え込んできたことだろ。それをオレに話してくれて嬉しいよ」
ぐすんと鼻を啜り、涙を手の甲で拭う。名前はそんなオレを見て、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「実は小学生の頃にね、家庭事情を友達に話したことがあるの。そしたら引かれちゃってさ。その頃から友達を作るのが怖くなったんだ。それでも不思議なんだけど、隆也となら友達になっても良いかなって、この話をしても良いかなって思えたの。隆也が愚直なまでに素直だから、そう思ったのかもしれないね」
彼女の言葉に、再び視界が滲む。好きな女の前で泣くなんて情けねえけど、どうしたって止められないものは仕方ない。
「でもこれは過去の話。今は一人暮らしをして家族から距離を置いてるし、こんな私の人生を受け入れてくれる友達が居る。だから悲観することは無いんだよ。聞いてくれてありがとね」
名前は穏やかな声色でそう告げた。沢山の嫌なことがあった筈なのに、こいつはしっかりと前を向いている。暗い過去に引っ張られることなく、明るく生きていくことがどれだけ凄いことか。
「オレこそ、話してくれてありがとな。これからも辛いことがあれば教えろよ。オレはどんな時も名前の味方だから」
そう言って、彼女の手を握る。手のひらから伝わる熱を掴みながら、オレは本気で名前のことを守りたいと思った。
彼女はにっこりと笑いながら、地面に父と母と姉という文字を書き始める。
「母はいわゆるうつ病で、一日の殆どを寝て過ごしているの。うつ病は不眠症を患う人が多いけれど、母の場合は過眠症でね。料理や洗濯に掃除といった、家事をすることも難しくて。だから六歳の頃から、私が代わりに家事をしていたんだ」
名前は地面の母の字の下に、うつ病という文字を書き足した。幼いころから当たり前に家事をこなしていたから、高校生という若さで一人暮らしができるんだろうか。静かに言葉を聞いていると、再び彼女は口を開き出す。
「姉は三歳上で自閉スペクトラム症、発達障害って言うと分かりやすいかな。だからとは限らないんだけど、かなり攻撃的で暴力と暴言が絶えなくて。毎日のように殴られたり蹴られたりして、暴言も浴びせられていたんだ。そんな日々を送る中で悟ったよ。人間の本質は欲にあるんだと。だから姉は私に酷いことをするんだって、思ったの」
今のオレはどんな顏をしているんだろうか。明るい声色で微笑む名前は、見ているだけで痛ましい。オレの目にじんわりと涙が滲んでいく中、彼女は慌てた様子でこちらの顔色を伺う。
「ごめん、あまりにも重い話だったよね。……気持ち悪い、よね」
彼女は顔を曇らせて、申し訳なさそうに呟いた。確かにこいつの家庭事情は、オレが想像していたよりも重い。今の話だってかいつまんだものだから、もっと言えないような事や酷い事もあっただろう。
だけど名前の人生を気持ち悪いなんて思わない。寧ろ今まで言えなかった苦しみを、オレに打ち明けてくれたことが嬉しかった。
「気持ち悪くなんかねえよ。お前がこれまでの人生、ずっと一人で抱え込んできたことだろ。それをオレに話してくれて嬉しいよ」
ぐすんと鼻を啜り、涙を手の甲で拭う。名前はそんなオレを見て、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「実は小学生の頃にね、家庭事情を友達に話したことがあるの。そしたら引かれちゃってさ。その頃から友達を作るのが怖くなったんだ。それでも不思議なんだけど、隆也となら友達になっても良いかなって、この話をしても良いかなって思えたの。隆也が愚直なまでに素直だから、そう思ったのかもしれないね」
彼女の言葉に、再び視界が滲む。好きな女の前で泣くなんて情けねえけど、どうしたって止められないものは仕方ない。
「でもこれは過去の話。今は一人暮らしをして家族から距離を置いてるし、こんな私の人生を受け入れてくれる友達が居る。だから悲観することは無いんだよ。聞いてくれてありがとね」
名前は穏やかな声色でそう告げた。沢山の嫌なことがあった筈なのに、こいつはしっかりと前を向いている。暗い過去に引っ張られることなく、明るく生きていくことがどれだけ凄いことか。
「オレこそ、話してくれてありがとな。これからも辛いことがあれば教えろよ。オレはどんな時も名前の味方だから」
そう言って、彼女の手を握る。手のひらから伝わる熱を掴みながら、オレは本気で名前のことを守りたいと思った。